盗人が盗品を返しても、「窃盗の罪」は消えない
今回の金品受領問題は、原発再稼働を進めている政府と電力会社にとって大きな痛手である。岩根茂樹社長は、問題発覚を受けた9月27日の記者会見で、受領した役員の名前や品目の詳細について説明を拒んだ。しかし国や筆頭株主の大阪市などから厳しい批判を受け、今回の報告書の公表会見に追い込まれた。
この問題を最初に報じたのは9月26日の共同通信だった。その後、報道各社の問い合わせを受けて、翌27日に関電側が記者会見を開いた。
報告書によれば、元助役の森山氏から20人の役員らに渡された金品は現金が1億4501万円で、残りは金貨、小判、商品券、スーツの仕立券などだった。受け渡しの際には、お菓子の箱や包みの底に金貨や小判、現金を隠していたという。
金品の大半は、昨年1月に問題の吉田開発が脱税(法人税法違反)容疑で金沢国税局の査察(強制調査)を受けた後に返却されていたが、使用済みの仕立券など計3487万円分は未返却のままだ。
見返りなどを期待された金品を一度受け取った後に返したからといって金品受領の事実はなくならない。盗人が盗品を返したからと言って窃盗の罪が消えないのと同じである。
ちなみに査察とは、裁判所の家宅捜索令状に基づく税務調査で、マルサ(国税局査察部)によって強制的に実施される。通常の任意調査とは違う。
関電は組織としてのモラルが欠如している
報告書によれば、関電は受け取りを拒むと激高する元助役の森山氏を恐れ、役員らに個人的に金品を保管しておくよう求めていた。
報告書は「管理や返却を個人任せにしていた。組織的な対応を怠った」として関電側の対応を批判し、「多額の金品を個人の管理下に置くことはコンプライアンス上の問題がある」と指摘している。
コンプライアンスとは法令順守を指し、企業の倫理や社会的責任を問うものである。組織としてのモラルが欠如しているとしか思えない。関電は電力というエネルギーを扱うだけに、その公共性は一般企業とは比較にならない。その自覚に欠けている。