企業の財務諸表や決算短信には、経営状態だけでなく、その企業の「志」もあらわれる。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「JR東海とJR九州は、どちらも業績好調だが、財務諸表を比較すると、『儲けの質』がまったく違うことがわかる。JR九州は実質的には運輸事業者というより不動産事業者となっており、今後に課題が残る」という——。
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業績好調なJR東海とJR九州の「志」はこんなに違う

東海旅客鉄道(以下、JR東海)と九州旅客鉄道(以下、JR九州)は同じ地域鉄道会社で、どちらも業績好調です。しかし財務諸表を比較すると、両社の戦略や思惑、そして「志」には大きな違いがあることがわかります。財務諸表を読み解くおもしろさをお伝えするいい事例なので、今回はその読み解きを解説したいと思います。

まず、JR東海ですが、財務内容は抜群です。通期の業績を表す2019年3月期の損益計算書を見ると、前期比3.1%の増加の1兆8781億円の売上高があります。驚くべきは営業利益で、前期比7.2%アップの7098億円ですが、売上高営業利益率は37.8%と驚異的です。

IT関連などの会社を別とすれば、通常の企業でこれだけの営業利益率を出せる会社はまずありません。抜群と言っていい業績です。

これにともない通常のオペレーションから稼ぐ「営業キャッシュ・フロー」は6003億円。営業キャッシュ・フローをどれだけ効率的に稼いでいるかを測定する「キャッシュ・フローマージン(営業キャッシュ・フロー÷売上高)」という経営指標がありますが、これも32.0%で、私が高収益企業の基準とする7%を大きく上回っています。

投資家が注視するROE(自己資本利益率)は13.4%で、これも多くの企業がこのところ目標とする10%を超える水準です。企業の中長期的な安定性を表す「自己資本比率(自己資本÷資産)」も37.3%と問題のない水準となっています。

これだけ抜群の利益を出せるのは、東海道新幹線のおかげでしょう。JR東海の収益の源泉は、日本の動脈である東海道新幹線です。訪日客の増加や長期間にわたる景気拡大により、東海道新幹線の利用客も増え、JR東海の業績を伸ばしています。