長時間労働は減っているが、仕事のストレスは増大

さて、最後に、仕事のストレスと長時間労働の時系列変化について調べよう。図表5には、ISSP調査から、先に掲げたのと同じストレスと長時間労働の指標について、1997年、2005年、2015年の値の主要国における時系列変化を追った。

日本の変化として目立っているのは、1997年から2005年にかけて増大した長時間労働が15年には減少に転じているにもかかわらず、仕事のストレスが一貫して深刻化の傾向をたどっており、特に05年から15年にかけて大きく増大している点である。

なお、日本の長時間労働の推移は図表1の動向と一致しており(特に就業構造基本調査の動きと一致しており)、信憑性が裏づけられていると考えられる。

図表5では、他国と比較して、日本は2005年から15年にかけて長時間労働が減っているのに仕事のストレスが増加している国として目立っている。

可処分所得が伸びず仕事の士気が高まらないことが影響

日本と正反対の動きとなっているのは米国であり、2005年から15年にかけて長時間労働は拡大しているのに、逆に、仕事のストレスは減少している。その他の国では、ほぼ、長時間労働と仕事のストレスはパラレルな動きとなっている傾向が認められるが、図を見ると、主要国の中でも長時間労働と仕事のストレスの水準の違いに関して2つグループがある点が目立つ。

すなわち、スペイン、フランス、ロシア、スウェーデンのグループでは、割合で見て長時間労働を仕事のストレスが大きく上回っているのに対して、プロテスタント系の米国、英国、ドイツのグループは両者がほぼ同一の水準にある点が印象的である。プロテスタント系は長時間労働の割にそれがストレスになっていないのである。

日本は、2005年から15年にかけて、後者のグループから前者のグループ、すなわち長時間労働により敏感な国、あるいは長時間労働以外の要因での仕事のストレスが大きい国に変化したともとれる。

以上のことから結論をまとめると、現在、過労死が大きな社会問題となっているのは、同じ時間働いていても仕事のストレスが高まっている結果の現象、あるいは仕事のストレスに敏感となった日本人の意識構造の変化を踏まえた現象なのであり、実際の長時間労働の拡大が主因ではないと考えられる。

図表3の中国とは逆に、可処分所得が伸びない状況の中で仕事への士気が高まらないことが影響している可能性がある。また非正規雇用の増加などで職場の人間関係が悪化していることが影響している可能性も大きい。

したがって、過労死対策についても単に長時間労働を減らせばよいというものではない。過労死対策は、パワハラなど職場の人間関係、あるいは非正規化や顧客重視にもとづくストレス増大への対策も含めた総合的なものでなければならない。

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