東急グループは技術開発ができない

【加藤】たとえば新規事業で顧客管理をする必要があるとします。しかし、サービスオペレーターである東急グループは技術開発ができないので、顧客管理システムを自社でつくれない。そこで顧客管理ができるスタートアップと組み、共同でシステムをつくっていくという動きが考えられます。

【田原】外注でもいい気がするけど。オープンイノベーションのメリットがよくわからない。

【加藤】メリットはベンチャーと大企業で違います。ベンチャー企業からすると、大企業と組めば、相手の資産を活用してビジネスを早くスケールさせることができます。大企業は、技術的な部分を補えることのほかに、スタートアップと組むことで、大きく固くなった体をもう1度柔らかくできるというメリットがある。私としては、後者のほうに特に期待しています。

【田原】そのための取り組みとして、東急はアクセラレートプログラムを2015年から始めています。この仕掛け人が加藤さんなんですね。

【加藤】はい。東急アクセラレートプログラムは、東急グループとスタートアップ企業の橋渡しをするプログラムです。これまでの4年間で東急グループと協業したいというスタートアップ510社からの応募がありまして、そのうち6社との業務提携および出資を実行しています。

【田原】ベンチャー側には、どんなアプローチをしているんですか?

【加藤】応募してくれるかどうかは別にして、この4年間で接点が持てたスタートアップは1000社くらい。昼夜問わず毎日スタートアップと会っています。

【田原】逆に東急側にはどう話しているんですか。「こんなベンチャーがあるよ」と言っても、事業会社の人たちは関心示さないでしょ?

【加藤】はい、じつは1年目はそれで失敗しました。「素晴らしい技術を持ったベンチャーなので一緒にやってください」とお願いしに行くと、「そんなのいらない」とメタクソに言われまして。たしかに事業会社側のニーズを把握もしないでお願いすれば、困るのは当たり前。そこは反省して、2年目以降は、このプログラムに参加する東急側の26の事業者に事前にヒアリングしています。さらにプログラムの選考過程にも一緒に入ってもらう形にしました。それ以降はうまくいっています。

【田原】加藤さんはベンチャーに理解があるかもしれない。でも本社の人たちはどうかな。自分たちは偉いと思って、ふんぞりかえってるんじゃない?

【加藤】会うまではそういう人も……いますね。でも、話すと変わります。本社の既存事業の方々とベンチャー企業に接点を持たせる会議を月に2回やっていますが、実際に会って話すと、自分たちにできないことが彼らにはできるという事実に否が応でも気づかされます。相互補完の関係だとわかると、お互いに理解も進みます。