【田原】言っていることはわかるけど、そんなことができるのかな。大企業の中間管理職なんて一番保守的でしょう。

【加藤】そうですね。私が普段コミュニケーションしているグループ会社の社長クラスは、みなさん相当な危機感を抱いています。一方、お客様と直接接点のある現場も、このままではお客様のニーズに応えられないとわかっている。危機感が薄いのは、まさに管理職。ただ、この層はリスクを取りたくないのですが、上が旗さえ振ってくれれば行動が変わります。オセロのように上と下で挟んで裏返すイメージでやっています。

会社をやめて起業はしないの?

【田原】このプログラムで協業した例を1つ教えてもらえますか?

【加藤】わかりやすいのはWAmazingとの協業です。この会社は事前にアプリをダウンロードしたインバウンドの旅行者に、空港で無料のSIMカードを配るサービスを行っています。SIMカードを配布する機械があって、それを東急が運営に関わる空港に設置してもらっています。東急側は機械を置くことで付加価値が増しますし、ベンチャー側も私たちの資産を利用できるというわけです。

【田原】海外のベンチャーとは組まないんですか?

【加藤】応募サイトは英語版も用意していて、実際に応募もあります。ただ、コミュニケーションや文化の問題で、現状は全体の1割程度しか海外への対応はできていません。

【田原】アクセラレートプログラムのほかには、どんな取り組みを?

【加藤】19年7月に渋谷で「SOIL(Shibuya Open Innovation Lab)」という招待制会員施設を開設しました。会員はここで仕事や会議ができますが、コワーキングスペースやサテライトオフィスとは違います。ここはいわばソーシャルクラブ。一定のスキルや価値観を共有している方々が集うコミュニティです。

【田原】最後に聞きたい。加藤さんは東急をやめて起業家にならないんですか。いまのキュレーター的な仕事は、独立してもできますよね。むしろ東急の縛りがなくなって、JRや西武にベンチャーを紹介できるかもしれない。

【加藤】うーん、外に出たら難しいでしょうね。いま東急の事業会社に話を聞いてもらえるのも私が中の人間だから。昔の上司が事業会社の社長をやっていたりして、人間関係ができているから動いてもらえる部分も大きい。それに、独立すると会社の管理という仕事が発生して、事業に集中できなくなるおそれがあります。私の好奇心をもっとも満たせるのは、やはりいまの形がベストかなと思います。

加藤さんへのメッセージ:ベンチャーとの協業の成功例をもっとつくり出せ!

(構成=村上 敬 撮影=小野田陽一)
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