東急電鉄が鉄道会社を分社化

【加藤】たしかにグループとしては売上高約1兆1000億円超と大きいのですが、実態は中小企業の集合体だと個人的には思っています。ちょうど2019年9月2日に東急電鉄が鉄道会社を分社化して、本体は東急株式会社になったところですが、ほかにもホテルや不動産、百貨店、スーパーなど、事業セグメントごとに子会社がたくさんあって、一つひとつは中小企業とそれほど変わらない規模です。この幅の広さが、おもしろいと思っていまして。

加藤由将●1982年、千葉県生まれ。法政大学卒業後、2004年東急電鉄(現東急)へ入社。12年青山学院大学大学院にてMBA取得。15年から「東急アクセラレートプログラム」を立ち上げ、運営統括を務める。経済産業省主宰Jスタートアップ推薦委員。

【田原】どういうこと?

【加藤】私は東急を鉄道会社ではなく、街づくりの会社だととらえています。しかも鉄道会社の中では一般の生活者と直接接点を持って価値を届けられる領域が、圧倒的に広い。それが東急を選んだ理由です。

【田原】なるほど。でも、街づくりといっても、もう全部あるんだから、やることないんじゃない?

【加藤】いまある街は、戦後、そして高度経済成長期につくられました。いまは転換点。街づくりもデジタルを取り込んでよりよい価値を提供することを考えなくてはいけません。そこはやりがいがあります。

【田原】デジタルを取り込むって、具体的にはどうするの?

【加藤】たとえば、いま、東急百貨店で買い物すると、普通はお客様が商品を持って帰りますよね。でも、この後に食事に行くかもしれないのに、それがお客様にとって快適なことなのか。たとえばデジタルを活用して、在庫を持たないショールームにして、電子決済して商品は自宅に配送するシステムにしてもいいはずです。

【田原】でも、アマゾンなんてお店に行く必要もないよ。いまの時代、お客がデパートに行くメリットってある?

【加藤】楽しめることだと思います。たとえば商品の手触り感など、店頭ではオンラインではできない価値を提供できます。さらに次の顧客価値として、用事がなくても何度でも足を運びたくなるテーマパークのような空間になることが理想です。別の言い方をすれば、ショッピングセンターではなく、人と楽しくつながれるリアルのコミュニケーションセンターになればいいのかなと。店員は友達みたいな。

【田原】不動産はどうですか?

【加藤】不動産もキーワードはコミュニケーションです。建物そのものはコモディティ化していて、建物の価値は「そこにどんな人が集まるのか」というところにシフトしています。たとえば渋谷と丸の内では、街を歩く人の服装が違います。この街、この建物にはこういう人たちが集まってコミュニケーションが取れるという点が大きな差別化要因になると考えています。