信頼に足る十分なデータがない

コスメ業界には、口コミレビューや記事コンテンツが大量に存在しますが、信頼に足る十分なデータはほとんどありません。たとえば爆発的にヒットした化粧品は、いったいどんな点が顧客の心を掴んでいるのか。その理由を分析するための「データ」がないのです。

商品を製造するメーカーであれば、当然自社で製造した個数はわかります。そして、卸に商品を納品した際に返品との差分を確認すれば、実際に売れた(であろう)数もわかります。

しかし、メーカー側がわかるのはそこまでなのです。「店先で、どんな属性を持った人がどの商品と比較し、何と一緒に買っていったのか?」ということは、卸に納品した先からまったく見えなくなってしまいます。

「CMがヒットし、人気の声が聞こえてきて小売で欠品続き」という商品でも、店舗でどのような行動の結果購入まで至っているのかは、謎に包まれたままのケースもあります。競合の状況を類推することも難しいこの状況でマーケティングを行うのは、なかなかに「無理ゲー」です。

新発見「高級コスメはプチプラと比較検討される」

ではどうすればいいのか。自分の中で出した解は「ないなら、作ればいい」ということでした。

こうした現状を目の当たりにして生み出したのが、コスメ通販アプリの「ノイン」です。そこでは、データ整形と分析に注力することを決めています。

たとえばノイン上では、リップの購入に至るまでにユーザーは平均で250個の商品を比較検討しています。これはあくまで平均で、熱心なユーザーだと最大で2000もの商品を比較検討しています。

さらに具体的にわかったことは、価格差が6倍以上の商品が「競合」になるという事実です。

ノイン上で、Dior(ディオール)のリップを購入した人たちが比較検討するブランドは、1位がDiorブランドの他の色(22%)、2位がイブ・サンローラン(8%)、そして3位が、ドラッグストアで販売されているCANMAKE(キャンメイク)(5%)でした。

Diorのリップが約4000円であるのに対し、「プチプラ」と呼ばれるCANMAKEは約600円と、価格差は6倍以上です。百貨店に並ぶ高級コスメとプチプラコスメが比較検討される「競合商品」という事実がわかったことは驚きでした。

なおディオールとの比較検討では、4位がRMK(5%)、5位がJILLSTUART(ジルスチュアート)(5%)、6位がM.A.C(マック)で、高級ブランドが続きますが、7位にはCEZANNE(セザンヌ)(3%)というプチプラコスメが入っています。

女性の本音は、化粧ポーチの中によく表れています。見ればわかりますが、そこには高級コスメとプチプラが並存していることでしょう。

ノインの比較検討商品の画面。高級ブランドのリップとプチプラブランドが並列に検討されていることが分かる。