第3に徐々に格差が拡大する背景には、学卒後からの就業を考えた場合、所定内給与に含まれている家族手当が主たる生計者(男性)に支給されることが多いことも考えられる。

2015年と2018年を比較すると、勤続年数が長くなるにつれて格差が拡大する傾向に変わりはないが、勤続30年以上を除けば同じ勤続年数での格差縮小が見られる。特に、男女間の昇進・昇格の差によって、賃金格差が拡大しやすい勤続15年以降においても格差が縮小していることは、昇進・昇格の機会を得て、管理職へ登用された女性が増えたことを示唆する。女性活躍の取り組みは一定の進展があったとみられる。

女性の活用度の低い企業には投資をしない

女性活躍を進め、女性の管理職や役員を増やすことが社会的・経済的課題となる中、不合理な男女間の賃金格差を放置している企業は、それが事業を継続していく上でのリスクになり得ることを真に認識する必要がある。例えば、企業をとりまくステークホルダーの中でも、資本市場における投資家がESG投資の考え方を通して企業を評価するようになっている。

ESG投資のESGとは、環境への配慮(Environmental)、労働環境や人権問題への配慮などの社会(Social)的公正さ、透明性の高い企業統治=ガバナンス(Governance)の3つの頭文字「E」「S」「G」をつなげたもので、ESG投資とは、この3つの要素に対する企業の取り組みに基づいて投資対象企業を選別する投資手法のことだ。

内閣府が2018年に機関投資家に対して実施した調査によると、先進的と思われる機関投資家は投資判断やその業務において、投資先企業の女性活躍情報を活用し始めている。その理由として最も多い回答は、「企業の業績に長期的には影響がある情報と考えるため」(68.9%)であり、次に多いのは「議決権行使において判断の参考とするため」(24.4%)である(「ESG投資における女性活躍情報の活用状況に関する調査研究 アンケート調査結果」)。

また、女性活躍に関する評価の活用状況に対する機関投資家の記述式の回答には、「ESGインテグレーション、ポジティブ・スクリーニングにおいて女性活躍に関する評価を考慮」するといった意見や「女性比率に基準値は設けていないが、議決権行使やエンゲージメントで考慮」といった意見等がある。

現状は、「女性活躍情報」に特化したファンドを運用しているとの回答は、10機関と全体の8.4%であるが、ESG投資の規模が拡大してきていることに鑑みれば、投資判断において女性活躍の要素を取り入れる投資家が今後ますます増えていく可能性は高いだろう。

機関投資家に株主総会での議決権行使について助言しているグラス・ルイスは、2020年以降、東証1・2部の上場企業については、候補者を含め女性の取締役や監査役、指名委員会の執行役が一人もいない企業には、総会で会長または社長の選任議案に反対を推奨するとの意向を示している。既に2019年には、TOPIX100に含まれる企業を対象に女性の役員起用を求める方針を明らかにするなど、資本市場においては、ますます女性活躍の重要性が認識されるようになっている。