「正直なところ、セリーナにも同情している」

試合後にいろんな人から訊かれた、あなたはこの決戦に向けて、なおみにどんな準備をさせたの、と。この世には、どんな準備をしようとどうにもならないことがある。そのときになってみないと、自分にどんな力が備わっているか、わからないものだ。そしてなおみにはなんと素晴らしい力が備わっていたことか! もちろん、セリーナとの試合に向けて、なおみにはいろいろなことを教えた。でも、敵の強さや弱点を知っただけではどうにもならないことがこの世にはある。なおみは結局、6-2、6-4でセリーナに勝ち、2018年全米オープンのチャンピオンとなった。

みんなで会場を去ったときは、深夜をまわっていた。なおみは疲労困憊していたせいだろう、われわれと家族の面々が宿泊先のホテルでとることになったディナーには加わらなかった。下に降りてくると、集まったみんなと一人ひとりハグしてから、「疲れたので、わたしはもう寝るから」と言って部屋に引き揚げていった。

正直なところ、自分はセリーナにも同情している。セリーナだって24度目のグランドスラムを獲得する力は十分に備えているのだから。セリーナがいなかったら、自分は今、なおみと共にこの場にいることはなかっただろう。今日の試合がどっちに転ぶか。それは神のみぞ知る、だったのだ。いま、わかっているのはただ一つ、家に戻るため、自分がパームビーチ行きの飛行機に乗るまで、きっかり4時間16分しか残っていないということ。それからまた仕事にもどって、月曜日には東京だ。なおみの次の戦いが待っている。すべてはこうなる運命だったのか……。
関連記事
世界一になる人が必ず守るシンプルな習慣
大坂なおみはなぜ「カモン」と叫ぶのか
やりたくない事をやり続けると病気になる
錦織圭のスピーチには"重大な欠陥"がある
なぜ陸上のスーパー女子高生は消えるのか