「正直なところ、セリーナにも同情している」
みんなで会場を去ったときは、深夜をまわっていた。なおみは疲労困憊していたせいだろう、われわれと家族の面々が宿泊先のホテルでとることになったディナーには加わらなかった。下に降りてくると、集まったみんなと一人ひとりハグしてから、「疲れたので、わたしはもう寝るから」と言って部屋に引き揚げていった。
正直なところ、自分はセリーナにも同情している。セリーナだって24度目のグランドスラムを獲得する力は十分に備えているのだから。セリーナがいなかったら、自分は今、なおみと共にこの場にいることはなかっただろう。今日の試合がどっちに転ぶか。それは神のみぞ知る、だったのだ。いま、わかっているのはただ一つ、家に戻るため、自分がパームビーチ行きの飛行機に乗るまで、きっかり4時間16分しか残っていないということ。それからまた仕事にもどって、月曜日には東京だ。なおみの次の戦いが待っている。すべてはこうなる運命だったのか……。