解答の「自由度の高い」記述問題の採点は判断に迷う

〈想定解答例2〉指さしが言葉の問題を解決してくれるということ。(23字)

この答案は、さらに判断が難しい。「指さし」について触れられている以上、条件②「指さしによるということが書かれている」には合致していることになる。では、「言葉の問題を解決してくれる」という箇所が、はたして条件③「コミュニケーションがとれる、または、相手に注意を向けさせるということが書かれている」と対応していると言えるのか、言えないのか。○か×かの判断はさらに難しくなる。

〈想定解答例3〉人間の身体性は言語の壁を超えるということ。(21字)

これもまた、簡単に判断は下せないだろう。条件②の「指さしによるということが書かれている」という内容を、「人間の身体性」とまで抽象化することに、問題はあるのか、ないのか。そして、条件③の「コミュニケーションがとれる(中略)ということが書かれている」点を、「言語の壁を超える」と“比喩”的に表現することは許されるのか、否か。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/TkKurikawa)

以上の答案についての判断に関しては、本稿で結論を出すことは控えておこう。ただ、他の設問のように“自由度の低い”記述問題ではなく、このように“自由度の高い”記述問題を仮に大学入学共通テストが出題するなら、このような、“判断に迷う”答案は、必ず多数、そしてもっと多岐にわたるバリエーションで作成されるはずだ。

ここで話を、前述した柴山文科大臣の会見に戻そう。

“判断に迷う答案”を自己採点しなければならない受験生

柴山大臣のロジックにのっとるなら、先ほど例示した想定解答例を大学生を含む採点者が採点することに、なんら問題はない、ということになる。なぜなら、採点者は、みな学生バイトも含め、「適正な試験」に合格して「必要な研修プログラム」を受けた「質の高い採点者」であり、さらに、個々の採点者の採点結果は、「採点監督者」の指揮の下、徹底的に「品質チェック」されるのだから。

なるほど、先ほど例示した想定解答例で指摘した“判断に迷う答案”は、採点業務に習熟した「採点監督者」が統括するのであれば、この「多層的な組織体制」と充実した「品質チェック」の下、適切に採点されることになるのだろう。

この点については、百歩譲って“問題なし”としておこう。では、これで大学入学共通テストの記述問題についての課題は、完全に克服されたと言えるのか。

ご存じの通り、大学入学共通テストは、現行のセンター試験の後継テストである。そして実際に経験した方も多いと思うが、とくに国公立大学を受験する生徒は、このセンター試験の採点結果によって、最終的な出願校を判断することになる。つまり受験生は、センター試験受験後、すぐさま自己採点を行い、その点数によって受験校を決定するのである。ということは、センター試験の後継である大学入学共通テストについても、受験生は同様の使い方をしていくことになる。

ここで懸案となるのは、国語の記述答案も受験生自ら採点することを強いられるということである。場合によっては、想定解答例で指摘したような“判断に迷う答案”を自己採点しなければならなのだ。