しかし、その甲斐あって現場の環境改善が進んだと自負する長濱氏は、社長就任後も引き続き、工場改革に取り組んでいます。
工場自体を研究所であり開発と実験の場としている
ところで、日研の業態のユニークさを表すものに、製造工場の機能があります。同社は、研究開発の施設は特に持たず、工場自体を研究所であり開発と実験の場としているのです。
日研の製品は、当然ながら金属加工でつくられます。しかも、BtoBビジネスですから、顧客のニーズを直接くみ取れます。ですから、顧客の要望に対応すること、あるいは自社製品の製造で必要となるツールや性能の追求が、そのまま開発と直結するのです。
たとえば、2017年開発されたゼロゼロホルダがその一例。旋盤でドリル加工を行う際のドリルの倒れと、回転軸に対する芯のブレをなくし、高精度の穴あけを実現したツーリングです。
「そもそもこれは商品ではないんです。旋盤加工で金属にきれいな穴をあけるのは難しいのですが、工場の工程でそこがなかなかうまくいかなかったので、社内用に私が開発しました。売るつもりはなかったのですが、それほど精度が上がったのなら、お客様にも提供してはどうかという社内の意見で発売することにしたのです」
旋盤用で高精度に深く穴あけができるホルダ機構は、世界初とのこと。ない道具、ほしい道具を自分でつくるのも、町工場の時代から変わることなく引き継がれてきた開発スタイルなのでしょう。“生産すなわち研究”とは、日研の面目躍如たるところといえます。
日研は、英国政府が同国のシェフィールドに創設した研究開発パーク(Advanced Manufacturing Park=AMP)内に15年、初の海外研究施設を開設し、先端加工技術の研究を行っています。AMP内には英国政府肝入りの研究所があり、周辺にはボーイング、ロールスロイス、BAEなど、航空機、自動車、エネルギー産業のトップ企業が集まっています。
「弊社はこれまで、主に自動車メーカーとその関連会社に育てられてきましたが、その経験と技術を生かして航空機市場で新しい顧客の獲得に挑戦したい」と長濱氏。その足がかりとなるのが、この研究施設です。
同時に現在、製品構成で1割程度のリーマ(ドリル穴を加工する工具)を3本目の柱として、より一層強化すべく注力していますが、こうして事業を拡大していくとき、技術の伝承とともに、社内のコミュニケーションが課題となります。日研も例外ではなく、その課題にさらされてきたようです。