話題沸騰「終身雇用見直し・廃止論」の発端
日本の伝統的な雇用慣行である「終身雇用」の見直しや廃止の議論が大きな話題になっている。議論の流れを見ていると、さも日本企業全体が終身雇用の廃止に向けて動き出しているような論調だが、額面通りに受け取ってはいけない。
きっかけは、経団連の中西宏明会長とトヨタ自動車の豊田章男社長の発言だ。メディアが経済界のキーマン2人の発言を紹介することで、終始雇用見直し・廃止が既定路線というようなムードが漂っているが、2人の発言内容は似て非なるものだ。前者は、見直し・廃止に積極的だが、後者は異なる。
見直し・廃止の議論の発端は、2018年の経団連の「就活ルール」の廃止だ。その延長で「新卒一括採用」の見直しが言われるようになり、そして今回「終身雇用の廃止」が飛び出した。
言うまでもなく、発信元は中西宏明経団連会長だ。でも、なぜ新卒一括採用の見直しが終身雇用の廃止につながるのか。
日本の新卒一括採用と終身雇用の仕組み
新卒一括採用方式とは、職業経験のない新卒学生を対象に採用日程・入社時期を統一し、大量に採用する日本独自の習慣だ。そして入社後はスキルのない新人に研修や職場指導などの教育を施して一人前に育成していく。入社後5~10年を教育期間と位置づける企業が多いが、当然その期間は多少の能力差はあっても、給与は年功的にならざるをえない。
そして本格的な実力発揮が求められるのは30歳以降となる。業務の経験・知見を武器に成果を出し、会社に対する貢献度が高い社員は給与が上がり、昇進していく。いわゆる出世競争が始まり、40代まで続く。途中で脱落しても敗者復活の道も残され、最後は定年を迎える。これが終身雇用、正確には「長期雇用」の中身である。
学生にとっては一括採用によって路頭に迷うことなく就職できるというメリットがあり、企業にとっては中途より人件費が安く、“真っ白”な人材を一から教えることで社業に邁進してもらうことが期待された。