経団連中西会長は終身雇用をやめようとしているのか

では、中西会長はなぜこの仕組みをやめようとしているのか。

一連の発言を追っていくと、その真意が見えてくる。中西会長は就活ルール廃止に際して新聞報道で「終身雇用制や一括採用を中心とした教育訓練などは、企業の採用と人材育成の方針からみて成り立たなくなってきた」と発言している。

また、今年4月22日、経団連の肝いりで開催された「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」の中間とりまとめに関して記者会見でこう発言している。

「新卒一括採用で入社した大量の社員は各社一斉にトレーニングするというのは、今の時代に合わない。この点でも考え方が一致した」(経団連記者会見発言要旨、4月22日)

中西会長は、ノースキルの学生を企業が一から育てるのでは間に合わない。企業が求めるスキルと能力を持つ人材を必要に応じてその都度採用することが理にかなっていると言っているのだ。

そうなると新卒一括採用・長期的育成と一対になっている終身雇用はどうなるのか。中西会長は5月7日の経団連の定例記者会見でこう述べている(経団連発表)。

「終身雇用を前提に企業運営、事業活動を考えることには限界がきている。外部環境の変化に伴い、就職した時点と同じ事業がずっと継続するとは考えにくい。働き手がこれまで従事していた仕事がなくなるという現実に直面している。そこで、経営層も従業員も、職種転換に取り組み、社内外での活躍の場を模索して就労の継続に努めている。利益が上がらない事業で無理に雇用維持することは、従業員にとっても不幸であり、早く踏ん切りをつけて、今とは違うビジネスに挑戦することが重要である」

要するに「事業の盛衰が激しい時代に、これ以上雇用を守りきれない」と言っているのだ。一経営者の発言ならまだしも、経済界を代表する経団連の会長がここまで言い切ることの影響は大きいだろう。

経団連会長としての見解を述べている中西氏(画像=経団連ウェブページより)

大手企業の定年前の希望退職募集件数はすでに昨年一年分を上回る

これまで、日本企業は事業構造を揺り動かす転換期に何度も遭遇してきた。

オイルショック、バブル崩壊、平成不況、リーマンショック時に「希望退職」という名のリストラが繰り返され、「終身雇用」企業から離脱していった企業も多い。特にパナソニック、東芝、NECといった電機大手は軒並み大胆なリストラに走った。

実は中西会長の出身母体の日立製作所も例外ではない。09年3月期に過去最大の赤字を計上したが、グループ企業のリストラをはじめ本体でも転籍含みの退職勧奨や希望退職を実施してきた。中西会長の一連の発言は、そうしたリストラ実施企業を代弁するかのように自らのリストラを正当化する発言のように聞こえる。

すでに今年(2019年)5月13日までに定年前の希望退職募集を公表した上場企業は16社、募集者数は6697人。2018年1年間の12社、4126人を上回っている(東京商工リサーチ調査)。もちろん中にはギリギリのところでリストラを踏みとどまっている経営者もいる。

しかし、中西会長の発言が、他の企業に安易なリストラに免罪符を与えてしまい、しっかりした議論のないまま終身雇用見直し・廃止が定着しかねない危険性を秘めている。