下位目的に拘泥してしまい失敗する

コニカミノルタのケースは、変化の時代にあっては、製品やサービスに加えて、それらを支える部門や社外ネットワークが担う役割を、当初の設置や導入の経緯に縛られずに、柔軟に見直すリポジショニングが重要であることを教えている。

たとえばコニカミノルタの事例でいえば、直販体制の構築における、「現地の情報を直接収集する」という目的は、「事業を成長に導き、収益性を高める」というより上位の目的の下における下位の目的にすぎない。

しかし、ビジネスの現場ではしばしば、この目的の上下関係を見失い、下位の目的にメンバーが拘泥してしまうということが起こる。特に成功体験に人は縛られやすい。ひとたび直販体制を構築する目的を、「国境を越えた統一的なサービスを提供する」に切り替えて成功すると、「国境を越えた統一的なサービスでいかに勝負するか」という発想から離れられなくなる。

コニカミノルタは、このわなにはまらなかった。そして、パッチワークを継いでいくようなマーケティングをヨーロッパにおいて展開し、したたかに地位を保っている。

現地の情報の直接収集や、国境を越えた統一的なサービスの提供は、下位目的にすぎない。このことを見失わないためにも、マーケティングのプロジェクトを進める際には、その節目節目で上位の目的にさかのぼってリソースの役割を検討し、再設定する必要がある

栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。
関連記事
「10分どん兵衛」を応援した日清の機転
日本からGAFAが生まれなかった根本原因
スバルが米国で過去最高を更新できるワケ
なぜ日本企業はアメリカで通用しないのか
キーエンスが年収2000万超を払える理由