ではなぜ、他社に先行していたわけではないコニカミノルタのMPSが、同社のヨーロッパでの躍進を支えたのか。ここでさらに想定外のリソースが、想定外の働きをする。これを見逃さなかったコニカミノルタ判断が、その後のヨーロッパ市場におけるマーケティング競争の明暗を分ける。

ヨーロッパでのコニカミノルタの販売体制は、競合他社と比較して、直接販売の比率が高かった。この違いがヨーロッパにおける競争の決め手となる。なぜならMPSでは、ソリューションの提案力と並んで、提案した内容を広域で一律に展開できる実行力が必要になる。特にグローバル大企業にMPSを提供する場合に、この実行力が重要となる。そしてそこでは、きめ細かくかつ統一されたサービスを、国境を越えて広く提供していくことに適した直販体制をもつ企業が有利となる。もし、各国ごとに販売を担当する代理店や特約店が違っていると、グローバルに均質のサービスを提供するのは非常に難しくなる。

さてコニカミノルタの直販体制は、そもそもは旧ミノルタが、自分たちで現地の情報を直接収集することを重視していたことの遺産だった。しかしこの体制が、MPSの時代になって競争上の新たな強みとなり、グローバル大企業への販売が拡大していく。

コニカミノルタは、2010年代のヨーロッパにおいて、この直販体制のさらなる拡充を進めることでMPSの実行力を高め、得意とするカラー複合機の拡販につなげていった。その後も各国のディーラーの買収を進めた結果、現在ではヨーロッパ各国のほぼ全てにおいて直販体制を確立している。

紙コピーが減るというさらなる市場の変化

マーケティングを進めていくうえで、変化は避けがたい。将来を見据え、計画的に自社の強みを構築することが重要だと教科書には書かれているが、そもそも将来を明確に見通すことは難しい。むしろ、変化する市場環境を受け止め、自らの強みを柔軟に見直すことが欠かせないのではないか。

コニカミノルタはヨーロッパでの直販体制の役割を、現地情報の収集から、統一的なサービスの提供へと切り替えるリポジショニングを行った結果、勝ちを拾った。

とはいえ、市場の変化は止まらない。2010年代に入りリーマン・ショックの影響が薄らぐ一方で、ヨーロッパの複写機・複合機市場には新たな動きが生じ始める。背後にあるのは、環境問題である。オフィスでの紙の使用量を減らし、PCやタブレットなどの活用に切り替える動きが、環境問題にセンシティブなヨーロッパの西側の諸国を中心に広がっていく。

複写機・複合機のビジネス・モデルは、機器の販売に加えて、機器の導入後の使用に応じて紙やトナーなどの消耗品から収益を得るというものである。したがって複写機・複合機の撤去にまでは至らなくても、その稼働が低下すれば、収益を直撃する。オフィスワークでの紙の使用が削減されれば、複写機・複合機のビジネスにとっては死活問題となる。