これらは、従来の競争戦略の下で勝てる企業の条件であり、多くの企業が無意識にやってきたことです。コスト優位で攻めるのか、差別化優位で攻めるのかを決め、巨額の先行投資をしてバリューチェーン(事業活動の連鎖)をつくり込むことが勝負のカギを握ります。そこで売り切りモデルを確立できるバリューチェーンをつくり上げた企業が、競争優位を獲得するという方程式がありました。
売れたからとほっとしている場合ではない
それでも、このような理想的な状況はほとんどなくなりました。今、述べたような勝ち組は、ほんの一握りにすぎません。多くの売り切り企業は、「販売」することだけで疲労困憊しています。戦略を成功裏に実現する余裕はないのです。
企業はマーケティング思考を駆使し、ターゲットに向けたプロダクト開発をしています。それと同時に、生産体制を構築し、販路を確保します。大きな販路とのタフな交渉を経て、やっと売り場にプロダクトが並ぶのです。
そこからが本当の試練です。無数にいるライバルとしのぎを削りながら、競争を経てユーザーのもとへと届きます。プロダクトの売り切りと同時に、所有権がユーザーに移転すると、企業はプロダクトから解放されるのです。実際にこの時点で売上が立ち、利益が確定します。企業としては、プロダクトが手離れした瞬間に、解放感でいっぱいになります。
実は、ここに問題があります。
企業のゴールを販売で迎えてしまうことで、利益獲得のチャンスを1回で終わらせてしまっているのです。企業は、プロダクトの売り切りによって利益を獲得しますが、それ以降は収益が入ってくることはありません。販売した時点で、それ以上ユーザーに深入りすることがないからです。これが、ものづくり企業やもの売り企業の利益が少ない理由です。
こうした売り切りモデルが苦しむ姿をよそ目に、全く真逆の成果を生むビジネスが見え始めてきました。ユーザーに熱烈に支持されながらも、十分に利益を獲得し、しかも、その利益が継続する。そんな理想的なビジネスモデルが、リカーリングモデルです。
サブスクリプションが急増したワケ
リカーリングモデルとは、リカーリングレベニューを実現する収益化モデルのことです。リカーリングレベニュー(recurring revenue)とは文字どおり、継続的に収益が入ってくる「状態」を表しています。販売時に売上を立てて、利益を計上し終えるのではなく、時間をかけて収益を回収していきます。繰り返し収益が入ってくるので、そこだけを切り取れば、経営者にとってこれほど望ましいことはないでしょう。
なかでもリカーリングモデルを採用し、成果をあげているのが、デジタル系の新興企業です。顧客を喜ばせるとともに、莫大な収益をあげ、株式時価総額を高めることに成功しています。