体重は厳密にコントロールされている

私が、1年間に食事から摂取しているエネルギーを計算すると、おおよそ95万キロカロリーくらいになります。体重はここ数年ほぼ変わっていないので、1年間で消費したエネルギーもほぼ同じであることが予想されます。身体が食欲をコントロールしながら、正確に食べたものと同じだけのエネルギーを消費するというのは、驚くべき体内メカニズムが備わっていることを意味します。年齢を重ねるとともに基礎代謝は低下していくため、若いときと同じカロリーの食事を摂取していれば、いずれ太っていきますが、体重がさほど変わっていなければ、摂取と消費のバランスがうまくとれているということです。

実験で、被験者の食事量と消費量を数週間から数カ月にわたって注意深くモニターしてみると、摂取カロリーと消費カロリーのバランスが見事に保たれていることがわかります。他の多くの哺乳類も同様に、食べすぎたり、飢えたりした後に自由に食べられる環境に戻すと、体重がすぐにもとの水準に落ち着きます。脳が身体から体重の指標となる「信号」を受け取り、それに基づいて身体が“自動制御”される結果、体重はかなり厳密にコントロールされています。

「やせる」ホルモンの仕組みとは

その食欲の「信号」には、体内で分泌される2種類のホルモン、「レプチン」と「グレリン」が関与しています。これらが競合し、上手にバランスを取ることで食欲はコントロールされています。

レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、基本的に食事をしたあと分泌されます。レプチンが分泌されると、脳の視床下部にある「満腹中枢」が刺激され、満腹感を覚えるようになり、食欲が抑制される仕組みです。レプチンという名前は、ギリシャ語の「レプトス」に由来し、「やせる」という意味です。

一方、グレリンは、胃から分泌されるホルモンです。グレリンが分泌されると、脳の視床下部にある「食欲中枢」が刺激され、食欲が増すことになります。グレリンは、空腹で体内のエネルギーが不足しがちなときに、その補充を促すため分泌されるホルモンです。

やせるためには、食欲を抑えるレプチンの働きが必要になります。そのため、肥満の治療薬としてレプチン投与の大規模な臨床試験が行われましたが、レプチンで減量できた肥満患者はほとんどいませんでした。大半の肥満患者は、レプチンが足りないのではなく、レプチンが効きにくいという「レプチン抵抗性」がありました。レプチンが多量に身体の中をめぐっていても、脳内で摂食行動を受容する「受容体」への作用が正常に働かないと、食欲は抑えられないということです。