ANAで成功すれば、ニュージーランド航空にもメリット

そこまでしてノウハウを提供したのは、ライセンス料の収入もさることながら、日本線で話題を広げたいからだとみられる。利用客の多いANAで成功すれば、ニュージーランド航空にも目が向く。

ニュージーランド航空がANA以外の他社にこのカウチの特許を許諾した事例を見ると、ブラジルのアズール航空のスカイソファとフランス領レユニオン島のエール・オーストラルで提供されるエクストラクシェットの例があるのみだ。

ニュージーランド航空の「スカイカウチ」の様子。利用者では子供連れが目立った。(撮影=北島幸司)

そもそもなぜハワイ線での導入になったのか。ハワイはアメリカ本土よりも時差の負担は大きい。このため日本発の往路で夜間便に寝ることのできるサービスは魅力がある。この路線専用の520席もの大型機材なので、レジャー客中心の余裕のある座席配置が可能となったことも大きい。

これまで置き去りにされてきたエコノミー向けのサービス

このサービスはエアラインにとっていいことずくめではない。ニュージーランド航空搭乗時の機内取材では、ビジネスクラスに搭乗していた夫婦が子供をもうけた後に「スカイカウチ」に移行した例を聞いた。

「スカイカウチ」を備えたニュージーランド航空のBoeing787-9(撮影=北島幸司)

機内食より座席の機能性を求める顧客には使い勝手はいいが、エアラインにとっては収益が下がることになる。

航空会社の収益構成の比率の高さは上級クラスにあるといっても過言ではない。そのため、従来の航空各社は上級クラスへの投資を優先し、どちらかと言えば、エコノミークラスは置き去りにされてきた。

だがLCCの台頭によって、エコノミークラス利用者にも多様なサービスを受け入れる素地ができた。LCCの顧客をフルサービスキャリアに戻ってもらうにはエコノミークラスのサービスに磨きをかけ、利用者を囲い込む必要が出てきた。

ANAはエコノミークラスに乗ってみたいと思わせる話題のある設備をつくった。それはニーズの多様化に応えるエアラインの回答でもあり、レジャー路線を利用する幅広い顧客層に訴求したい戦略でもある。顧客にとっては、選択肢が増えて双方が良い思いをすることとなる。

北島 幸司(きたじま・こうじ)
航空ジャーナリスト
大阪府出身。幼いころからの航空機ファンで、乗り鉄ならぬ「乗りヒコ」として、空旅の楽しさを発信している。海外旅行情報サイト「Risvel」で連載コラム「空旅のススメ」や機内誌の執筆、月刊航空雑誌を手がけるほか、「あびあんうぃんぐ」の名前でブログも更新中。航空ジャーナリスト協会所属。
(撮影=北島幸司 写真提供=ANA)
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