もう1つの人材マネジメントの難しさは「人の生かし方」がこれらの国では簡単ではないということだ。もちろん、どの国においても、現地の従業員に考え方を伝え、意見を引き出し、人材を育て、やる気を高め、そして成果を挙げていくことは簡単なことではない。しかし、特にインド・ベトナムでは人のマネジメントが難しいという意見がよく聞かれるのは事実だ。
ヘイ・グループ インド駐在シニアコンサルタント、李佳煕は言う。
「インド人の特徴として真っ先に思い浮かぶのは、『議論好き、交渉好き』ということでしょう。インドの現地法人でインド人を部下に持つ日本人駐在員がまず直面するのは、ちょっとした作業の依頼をするときでも、仕事全体から見たその作業の位置づけや意味合い、重要性などについて事細かに説明を求められるということです。これに戸惑ったり閉口している駐在員は少なくありません。しかし、いったん作業をまかせると、インド人の業務遂行の能力は高いといえます」
インドでは、コミュニケーションの初期段階で、相当な労力を要することが特徴的である。
一方、ベトナムにおいてはどうだろうか。同じくヘイ・グループ ベトナム担当コンサルタント、遠藤俊海は言う。
「首都であるハノイと商業の中心地ホーチミンでは異なる部分もあるものの、概して勤勉で努力家だというのが、ベトナム人の特徴です。実際に現地の駐在員と話をしてみても、これに異を唱える人はあまりいません。しかし、それとともに、『でもね……』と話題に上るのが、創造性に乏しい、という点です。新しい知識を学ぶことには貪欲であるものの、その知識を生かして自分で何かを生み出すことが苦手な人が多い、と感じている駐在員も多いように思います」
このような状況のなかで、ベトナムの日本人駐在員は、言われたことをこなせるようになったベトナム人従業員が自主的に仕事に対する意見を言ったり、思ったことを発言できるような関係をどのようにつくっていくかに苦慮している。実際にベトナム人に聞いてみても、「過去の歴史がそうしたのだと思うが、ベトナム人同士でもどこか心の底から信頼しあうことを恐れているところがあるのでは」という話が出てくる。その意味では、コミュニケーションを深めていく段階で、相当な労力を要している、ということがいえる。どちらの国民性も「比較的勤勉」と言われてはいるものの、先ほど述べた高い賃金上昇率を考えると、彼らにも経営効率を求めざるをえないステージがそう遠くないところにきており、そのためにもコミュニケーションの質を高めていくことが避けられないテーマとなってきている。