現地人材は給与・評価に対して敏感になっている

では、具体的にこれらの国において、どのように「コミュニケーションの前提としての人事インフラ整備」に取り組んでいけばいいのであろうか。「インドでは、ふっかけられた議論から逃げずに、こちらも理屈でもって意見を戦わせる」こと、ベトナムでは、「沈黙しているか、雄弁に語っているかは別にして、その本音がどこにあるのかを探る」ことが求められる、というのが答えになるだろうが、これだけでは十分ではない。成果を出し続けるためには、コミュニケーションを通して彼らをどのように動機づけるかがコミュニケーターである日本人駐在員に求められる。

「インドでも昨今、欧米型の人事処遇制度を導入する企業が増えているが、これは議論好きが多いインドにおいて、ロジカルで一貫した説明がしやすい制度を導入するメリットを地場企業や一部日系企業が気づきだしているからだと思います」(李)

日々のコミュニケーションが重要なことにはかわりないが、従業員にとって関心の高い処遇の仕組みをまず整えることが、やる気を高めるためのインフラづくりとして必須、ということだ。ちなみにインドでは、福利厚生や手当等の報酬構成の改革や 賃金水準の検討に取り組んでいる企業も多い。

ベトナムについても同様の兆しがある。ここ5~7年の間に中国において「欧米的な思想に基づく人事制度」の導入が急速に進んだが、その過程で国営企業が手当を厚くし、非常に複雑だった処遇体系を職務の大きさや成果を中心としたシンプルなフレームに変貌させた。ベトナムにおいても、税制の見直しや、進出欧米企業の人気が高まっていることを考えると、今後このようなシンプルな処遇制度への転換を図る企業が増えていくことだろう。

「特にスタッフ系従業員を考えると、WTOへの加盟もあり、欧米企業も積極的に人集めに動いており、更に管理職需要が高まっています。この動きを受けて、賃金レベルが急騰していますが、『言われた仕事しか遂行しない人材が多いのに、ここまで賃金レベルを上げるのは納得がいかない』という日系企業もあり、引き続き賃金問題は、人事インフラを考えるうえでは課題になり続けるでしょう」(遠藤)

こう考えると、日々現地従業員と接する日本人駐在員にとって、現地従業員の人事制度は“ひとごと”ではない。以前、日本では「人事や賃金は人事部が決めるものであり、現場はそれは横に置いておいて、日々どのように部下に接するかだけだ」と考えるきらいもあったが、海外では、人事部ではなく、ボスである駐在員が制度をつくったと受け止められる。また、成長著しいこれらの国では、給与、特に短期的な給与の世間相場に対する意識が高く、言語の問題等から日本人駐在員が自分をどう評価しているかへの関心(もしくは懐疑心)も高いゆえに、人事制度が職場に与える影響は日本に比べて大きく、日本人駐在員が現地従業員の人事制度についての関心や意識をより高く持つ必要性がここにある。