佰食屋にとっての「仕事ができる人」
最後に、佰食屋は1日100食以上なにがあっても売りません。
ですから、店頭に出て呼び込みをする、といったちょっと勇気がいることもする必要はありません。
結果として、佰食屋が採用した従業員はみんな、話すのがちょっと苦手で、ちょっと不器用で、そんな愛すべき人ばかりです。みんな、言われたことをきちんと真面目にしてくれるし、毎日同じ仕事を黙々とこなすことが得意ですし、どんなお客様にも丁寧に接してくれます。やさしくて、本当にいい方ばかりです。
それが、佰食屋にとっての「仕事ができる人」なのです。
ビジネス書ではよく、従業員の主体性を引き出す方法や、アイデアを生み出す方法について語られています。
けれども、みんながみんな、そういう人になる必要がありますか?
コツコツと丁寧に、毎日決められたことを、きちんとやる。むしろそっちのほうが得意だ、という人も多いのではないでしょうか。「コミュニケーション力がある」ことは、あくまで一人ひとりが持っている「得意なこと」の1つに過ぎない。そして、得意なことは人それぞれ違うのです。
「誰がやってもできること」をする本当の狙い
最近、「AI(人工知能)に取って代わられる仕事」といった話題をよく耳にします。ならば、わたしたちが大切にしている「コツコツと丁寧に、毎日決められたことをきちんとやる」仕事は、真っ先にAIに置き換えられてしまうのではないか。
でも、佰食屋はそれを「あえて」やっています。
佰食屋が従業員にしてもらっていることは、「誰がやってもできること」です。極端に言ってしまえば、ロボットでもできること、なのかもしれません。肉は毎日同じ部位を取り扱いますし、毎日同じものを100食つくり、提供します。メニューには全部説明が書いてありますし、レジも3店舗全部同じ機種です。年齢・性別・学歴・経験を問わず、誰がやっても、3カ月もあれば身体で覚えられます。
でも、毎日毎日同じことを繰り返していると、なにも考えなくても、自然と身体が動くようになります。とにかく「毎日100食売り切ること」に集中できます。
すると、なにが起こるか。
頭が空っぽになって、ほかのことを考えられる余裕が生まれます。そこがわたしたちの「狙い」なのです。