急成長を遂げてきた「いきなり!ステーキ」で客離れが起きている。既存店売上高が昨年4月から9カ月連続で減少しているのだ。この業態は廃れてしまうのか。フードアナリストの千葉哲幸氏は「これまでの数字が良すぎた。同社は他社が苦しむ人手不足とは無縁で、まだ成長余地はある」という――。
「いきなり!ステーキ」海外1号店でステーキを食べる米国人男性=2017年02月23日、アメリカ・ニューヨーク・マンハッタン(写真=時事通信フォト)

鳥貴族と同じ理由で、いきなりの客離れ

ペッパーフードサービスが運営する「いきなり!ステーキ」は、肉ブームに乗って急成長、急拡大を続けてきた。ところが、最近になってその勢いが衰えてきた。2018年12月の月次報告によると、既存店売上高が前年同月比で13.8%減、2018年4月から9カ月連続で減少している。

客離れの最大の原因となっているのは、やはり値上げだろう。かつては1g当たり5円程度だったのが、最近は6.9円くらいにまで上がってきている。基本的な300gの価格でいうと、1500円から2070円にまで上がったことになる。「うまい、安い、早い」といわれた「いきなり!ステーキ」だが、いくらステーキでも2000円超えは「安い」とはいえないのではないだろうか。

かといって、仕入れ原価などが上がってきている中、値上げすること自体は避けては通れず、安易に戻すわけにもいかない。仮に価格を元に戻しても、提供する肉の質が下がれば、「昔のほうが美味しかった」と長期的な客離れを招きかねない。ちなみに焼き鳥居酒屋の「鳥貴族」も同じように値上げで業績を落としており、同社も価格を戻す動きはない。

人手不足の飲食業界で採用に困らないワケ

人口減少社会になった日本では、薄利多売のシステムで長続きすることは難しい。長期的に成長していくためには、値上げと共に付加価値を生んでいくことが必須だ。一時的に売上は落ち込むだろうが、「今は耐え時」といえるだろう。

実際、ペッパーフードはこれまで何度も危機に直面したが、そのたびに一瀬邦夫社長のもと、創意工夫によって乗り越えてきた経緯がある。一瀬社長は「危機感もまた、私にとって前に進むためのエネルギー」と語っており、現在の既存店の数字については、「前年が絶好調だったことの反動が大きい」と言っている。つまりそれだけ2017年の数字が良すぎたということでもあり、「いきなり!ステーキ」は急成長のフェーズから安定期に入りつつあるわけだ。

飲食業界は総じて流行り廃りのサイクルが早く、どこも慢性的な人手不足と物件探しに苦しんでいる。しかし、「いきなり!ステーキ」はそのいずれにも困っていない。人材募集の説明会を開けば参加者の90%以上が応募するなど、就職市場での人気は非常に高い。なぜなら、月給50万円保証を謳ったり、採用時に30万円の支度金を用意したり、さらには入社後のベースアップも早いなど、待遇面が充実しているからだ。