人間がやるからこそ仕事が洗練されていく
毎日同じことを繰り返すからこそ、些細な変化や違和感に気づくことができます。その違和感から生まれるのは、お客様が「もっと過ごしやすくなる」、あるいは自分たちが「働きやすくなるため」の小さな、でも価値あるアイデアです。
「傘の取り間違いを防ぐため、番号を書いた洗濯ばさみを傘につけて目印にするのはどうか」「店員に声をかけなくても好きなだけお茶を飲めるように、ボトルをさまざまなところに配置したい」「海外からのお客様は味噌汁を飲む際スプーンを使うようなので、最初からスプーンをお出しするのはどうか」など……。
本当に細かいところに気づいてくれるので、毎回感心しています。
そのアイデアは、決して来店数と売上額といった定量的なものから答えを出すAIから、生まれるものではないでしょう。
誰でもできる仕事をAIでなく、人間がやっているからこそ、仕事はどんどんと洗練されていく。
すると、変化のない単調な環境に彩りが生まれ、みんながさらに楽しく、さらに余裕を持って働ける環境になるのです。
そして、その余裕はお客様への心配りにもつながります。
口グセは「そこに愛はあるんか?」
「そこに愛はあるんか?」。
テレビCMで聞いたことのあるセリフだと思いますが、これはわたしの口グセです。従業員たちにいつも、大地真央さんばりにドスを利かせて、問いかけています。
たとえば、ステーキ丼。
肉を切り分ける担当者が1日につきステーキをスライスする枚数は、1食あたり18枚。100食に換算すると1800枚です。何枚も何枚も切り分けていくと、ボーッとしているうちに、ただただ数をこなすだけの作業になってしまいます。
けれども、もしそのステーキ丼のうち、1食を小学生の女の子が頼んでいたら?
いつもの大きさのままでは、一口では肉を噛みきれないかもしれません。それなら、半分の大きさにして、同じ量を32枚に切り分けると食べやすいのではないか。
オーダーが通ったとき、黙々と下を向き作業するのではなく、一目、目の前のカウンターを見上げる。そこに女の子がいることを確認する。そして、やるべきことを実行するのが「愛」です。
愛にはお金がかかりません。けれども手間がかかります。
従業員たちが自分の判断できちんとそれを考え、実行できるか。その手間は愛だ、と教えることが、わたしの仕事だと考えています。
「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」代表
1984年、京都府生まれ。2012年に「1日100食限定」をコンセプトに「国産牛ステーキ丼専門店 佰食屋」を開業。行列のできる超人気店にもかかわらず「どれだけ売れても1日100食限定」「営業わずか3時間半」「飲食店でも残業ゼロ」というビジネスモデルを実現。また、多様な人材の雇用を促進する取り組みが評価され「新・ダイバーシティ 経営企業100選」に選出。2019年に日経WOMAN「ウーマン・オブ・ザ・イヤー大賞」を受賞。6月に初の著書『売上を、減らそう。』(ライツ社)を出版。