クリティカルシンキングを身につける
文系の人はいきなり理系の勉強に手をつけるのではなく、まず客観的に物事をとらえるクリティカルシンキングを身につけるところから始めましょう。クリティカルシンキングは文系でも求められますが、理系ではなお重要で、論理的な思考ができないと話になりません。
次に学びたいのは戦略です。中核は経営戦略ですが、営業、マーケティング、財務、人事など、いま自分が携わっている機能の戦略から学ぶと入りやすいでしょう。
戦略的思考までは文系でも必須の教養ですが、もし先に進むなら、入り口になるのは会計や財務、あるいは定量分析や統計です。このうち会計や財務の基礎で求められるのは算数レベルの知識で、ハードルはそれほど高くありません。定量分析や統計になると数学を使うので、中高で数学を苦手としていた人は復習が必要になるでしょう。
数学を復習するといっても、すべて学び直すのは大変です。経営や実務に使う可能性を考えると、「微分積分」「ベクトル・行列」「確率・統計」の3分野で十分です。数学の基礎教養を身につければ、財務や定量分析を数式で表現して思考できるようになります。ただ、数式はあくまでも机上の世界。現実の問題を解決するには、数式をプログラムで表現し直してコンピュータを動かす必要があります。ここで初めてプログラミングが出てくるわけです。
こうした体系的な流れを無視してプログラミングを学ぶのは本末転倒。一見遠回りに見えても、文系としての自分の専門性や必要性から出発して積み上げていったほうが、STEMやプログラミングが“使える教養”になるでしょう。
プログラミングまでは必要ないという人も、プログラミング的思考を磨くことをおすすめします。プログラミング的思考はプログラミングを行うときに使う思考のこと。ひらたくいうと、客観的に最適解を導くクリティカルシンキングと、全体像のデザインから考えるデザインシンキングを組み合わせたようなものです。プログラム的思考はエンジニアとのコミュニケーションを円滑にするだけでなく、ビジネスの課題解決にも役立ちます。
文系の人がSTEMやプログラミングを効果的に学ぶときの鍵は、やはり必要性です。理系の人は数式をいじったり、プログラミングをすること自体を楽しめますが、文系の人の多くはそうではないでしょう。モチベーションの支えになるのは、学ぶものと実務のつながり。たとえば「微積分は在庫管理に使われている」と聞けば、身近に感じられるはずです。自分の仕事にかかわる理系の知識や技術は何なのか。そこから始めることが理系の教養を身につけるコツなのです。
▼STEM入門書 おすすめ4選
『微分・積分を知らずに経営を語るな』
学びのモチベーションを高められる一冊。経営に数学が必要だと気づかせてくれる。
『プログラミング教育はいらない』
プログラミングそのものというより、「プログラミング的思考」が身につく入門書。
『データ分析をマスターする12のレッスン』
統計データ分析の基本を習得できるようになる。大学院の田中ゼミでも使用している。
『文系プログラマーのためのPythonで学び直す高校数学』
AI分野で利用されるプログラミング言語と一緒に、数学を学べる一石二鳥の本。
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学ビジネススクールMBA。上場企業の社外取締役や経営コンサルタントも務める。近著に『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』。