英語専用チャンネルを開設しよう

【三宅】では日本の英語教育について国への提言などはおありでしょうか?

【西成】すでに官僚の方々には提案していることなんですが、とにかくテレビで英語専用チャンネルを作ってほしいです。なぜヨーロッパの人の英語が上手なのかといえば、日々の生活でテレビをつけると自然と英語が耳に入る環境があるからです。ドイツもやはり英語のチャンネルが多くて、しかも面白いコンテンツが多いのでみんな観ます。だから日本でも、面倒な設定なしで英語専用チャンネルが観られる環境をつくれば、日本人の英語力は一気に上がると思っています。

【三宅】学生さんにも英語のアドバイスをよくされていますよね。

【西成】先日、高校生を相手に「英語ができるようになるためには」というテーマで講演をしたのですが、そのときに彼らに伝えたのは「英語ができるようになりたいならドイツ語を勉強してごらん」と。

【三宅】みんなキョトンとしていませんでしたか?

【西成】おもいきり目が点になっていました。なぜドイツ語かといえば、とんでもなく複雑な言語だからです。たとえば英語だとtheという定冠詞があります。でもドイツ語だとtheに該当する言葉は、そのあとに何がつくかで12通りも変わります。しかも、わからない言葉を辞書で引こうとしても出てこない。文章の最後にあるものを頭に付けるとようやく辞書に出てくるような非常に複雑なルールがあります。

それを少しでも経験したあとに英語に戻ると、英語が本当に簡単な言語に思えてきます。勉強もまったくつらく感じなくなるし、頭にもすんなり入ってくる。実際、私もドイツ語を勉強しだしたとたん、英語力がみるみる伸びましたからね。

【三宅】なるほど。では大学進学を考えている高校生は第2外国語でドイツ語などの習得が難しい言語を選ぶとよいわけですね。

ドイツ語を学ぶと英語力が上がる理由

三宅 義和『対談(3)!英語は世界を広げる』(プレジデント社)

【西成】はい。他の言語でもいいのですが、私がよく学生さんに伝える格言に「ひとつのことしか知らないのはなにも知らないのと同じ」というものがあります。ようは複数の知識を取り入れることで初めて相対化できて、視野が広がるんです。当時、私が使ったのは英語からドイツ語を学ぶという本で、これを読んだときに自分の中で両言語を相対化することができました。

だからいまでもあるテーマの本を買うときは、できるだけその本を批判している本も買うようにしています。たとえば私はいま利他主義を研究していますが、あえて利己主義を絶賛している本も読む。そこまでして初めて利他主義の輪郭のようなものが見えてきます。

渋滞にしても、政策にしても、勉強法にしても、やはりちょっとズームアウトして全体を見ることが大事だと思いますね。そうすると違う視点が見えてくるものです。

西成 活裕(にしなり・かつひろ)
東京大学 先端科学技術研究センター教授
東京大学工学部卒業後、同大大学院工学系研究科航空宇宙工学専攻博士課程修了。専門は数理物理学、渋滞学。主な著書に『渋滞学』『誤解学』『無駄学』などがある。
三宅 義和(みやけ・よしかず)
イーオン代表取締役社長
1951年、岡山県生まれ。大阪大学法学部卒業。85年イーオン入社。人事、社員研修、企業研修などに携わる。その後、教育企画部長、総務部長、イーオン・イースト・ジャパン社長を経て、2014年イーオン社長就任。一般社団法人全国外国語教育振興協会元理事、NPO法人小学校英語指導者認定協議会理事。趣味は、読書、英語音読、ピアノ、合氣道。
(構成=郷 和貴 撮影=原 貴彦)
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