アリは人間より賢く、混雑の予兆を察知して対応する

【三宅】アリは渋滞しないというお話を聞いたことがあります。

【西成】アリは人間より賢くて、混雑の予兆を察知したらそれ以上詰めないでバッファ(余裕)を残します。それを物理の世界最高峰の雑誌に投稿したら一発で載りまして、掲載翌日にはヨーロッパ中の全メディアで「アリは渋滞しない」と報道されました。どれだけ平和なニュースなんだ、と。

【三宅】人間が詰めている場合ではないですね。

【西成】結局、アリが渋滞しない理由も、間隔を詰めるアリは進化の過程で絶滅したからだと思います。ホモ・サピエンスが誕生して20万年といわれますが、アリは2億年ですから。もっと自然から学ぶべきです。

【三宅】ドライバーはどんなことを意識すればいいですか? 無駄な車線変更をやめるなどでしょうか。

【西成】車線変更は大きいです。せっかく車間距離をとっていても間に1台入ったら車間が一気に縮まるので割り込まれた車がブレーキを踏んでしまいます。以前、東名高速でお盆の時期に起きた40キロ渋滞の原因をデータで調べたのですが、犯人はたった1台の追い込み車線への割り込み。後ろの車がバッとブレーキを踏むと、そのあとダダダっとブレーキのバトンのリレーが始まって、40キロ渋滞の出来上がりです。

【三宅】ブレーキのバトンですか。

【西成】はい。だからバトンを伝えたら負けなんです。100台に1台でもいいので車間距離を多めに開けてる車がいると渋滞を吸収できます。車間距離というものは貯金のようなもので、混んでいないときからゆとりを持って、混んできたらだんだん貯金を使っていけばいい。そういうイメージです。ただ、5月、8月、12月はもっと根本的な対策が必要ですが。

イーオン社長の三宅義和氏(左)と渋滞学の西成活裕氏(右)

ドイツと日本では休暇に対する理解度が違う

【三宅】根本的な対策があるんですか?

【西成】2011年、民主党政権時にある大臣に助言したのが休暇分散です。例えば関西と関東で連休をズラせばトータルの車の量が減る。少し前に私はドイツに住んでいましたけどドイツは州ごとに休暇が違います。隣のフランスもそうです。

【三宅】ただ、企業としては地域ごとに休むと不具合もありそうですね。

【西成】おっしゃる通りです。日本で休暇分散を議論するなら、いまは4割くらいしかない有給休暇取得率を100%近くまで上げることもセットにして議論しないといけません。ようはドイツと日本で根本的に違うのは、休暇に対する理解度です。「あの会社、今週休暇中だよ」と言われたときに、「じゃあ、仕方ないね」と思えるかどうか。それなのに休暇分散だけを切り出して世間に発表してしまった。だから非難轟々(ごうごう)で撤回したんです。

【三宅】覚えていますよ。先生が助言されていたんですね。