従業員はお金を出す投資家ではないが、お金以上に大切な自分の時間や経験、スキルを会社に投資してくれているという意味で投資家だといえる。

従業員が投資家だとすれば、会社を退職するということは、その人自身が投資先を変えるということだ。投資に見合わない、投資を続けようと思えない会社だと判断されたということになる。ならば、もっと会社を磨かないともっと人が辞めてしまう。

このように考えることで、従業員の退職を以前よりも自責的にとらえられるようになった。

「ここまで育ててやったのに」では心がもたない

家族や同志と思っていたときは、「ここまで育ててやったのに」だの「あのとき、あれだけ助けてやったのに」だのといった気持ちが、心のどこかから否応なく湧き出してきた。そうやって責任を相手に転嫁していた。

小笹芳央『モチベーション・ドリブン』(KADOKAWA)

けれども、それでは自分の心がもたないことに気がついた。そして、従業員は投資家だと考えるようになったのだ。それからは、従業員の退職を「この人はアイカンパニー(編注:自分自身を1つの会社と見立てる発想)として投資先を変える判断をしたのだな。ならば、これからは投資されるに足る会社にしよう」と思うようにしている。

リンクアンドモチベーションを創業して従業員が100人ぐらいになるまでは、創業者として従業員全員を面談して採用した。だから、従業員一人ひとりの顔と名前はもちろん、家族関係や志望理由、転職理由なども細かく知っていた。ゆえに、辞める人が出たときにはつらかった。

激動の時、社員は辞めるものである

2000年の創業以来、業績は順調に成長拡大してきたが、ご多分に漏れず、2009年初頭からはリーマンショックの影響を大きく受けた。

さまざまな拠点や研修センターの撤退、ボーナスカット、営業への人員の配置換えなど、「for All」として生き残るために、従業員にとって厳しい判断を下した。そして、こういうときに中核メンバーであっても人は辞めるのだということを痛感した。

撤退判断を早く一気にやったことで赤字に転落することはなかったのだが、85%の減益となった。インパクトのある減益ではあったけれども、利益は出して何とか企業として生き残り、翌年から少しずつ業績は回復する。

こうした企業のアップダウンの変化が激しいときに、意外と人が辞める。人と組織を考えるうえで、知っておいて損はない事実だろう。