首相就任の直前に出した『美しい国へ』で書いたこと

「令和」が発表された1日には、有識者による懇談会や全閣僚会議での協議も行われ、そのうえで「令和」に決まったという説明だった。ところが、その後の報道で、実際には安倍首相に一任され、6案に絞られた候補の中から安倍首相が決めたことがわかってきた。有識者に反論はなく、閣僚からも異論が出なかったという。

なぜ安倍首相は『万葉集』を選んだのだろうか。

そこで沙鴎一歩が思い出すのが、安倍首相が官房長官のときの2006年7月に出版した『美しい国へ』(文春新書)という本である。「自信と誇りのもてる日本を取り戻そう」と訴えたもので、安倍首相の初めての単著だった。

読んでみると、内容は自ら信じる保守主義を強調したものに過ぎず、「美しい日本」という言葉に騙されたのをよく覚えている。どこがどう美しいのかを考えて読まないと、危険でかなり怪しいのである。

たとえば第一章の「わたしの原点」ではリベラルと保守主義を比較し、安保反対を「中身も吟味せず、何かというと、革新とか反権力を叫ぶ人たちを、どこかうさんくさいなあ、と感じていたから……」などと批判する。さらにジャパン・アズ・ナンバーワンにも言及している。安倍首相の「第一主義」好きは、アメリカのトランプ大統領のそれよりも古く、トランプ氏以上なのかもしれない。

自らの理想が最高であると信じて疑わない

第二章が「自立する国家」で、第三章が「ナショナリズムとはなにか」と続く。これだけ見ても安倍首相の理想とする「美しい国」が何ものであるかが、よく分かる。

新しい元号を中国の古典からではなく、日本古来の『万葉集』から採用したところは、一見すると日本らしさが表れている。しかも『万葉集』は、純粋で牧歌的、なおかつ情熱のこもった歌が多い。「これが日本の美しさだ」と感じる人もいるだろう。沙鴎一歩も『万葉集』に収められたひとつひとつの歌に対しては、そう感じる。

しかしへそ曲がりの沙鴎一歩には、これが安倍首相の作戦に思えてならない。安倍首相は美しい『万葉集』を隠れ蓑にして、理想とする保守主義を貫こうとしているのではないか。安倍首相は自らの理想が最高であると信じて疑わず、驕りとたかぶりで反対意見をまともに取り合わない。その政治姿勢は民主主義国家の宰相とは思えない。