醤油ラーメン15ドルでも、週に3回通う客がいる

店の前には行列ができている(写真提供=毎日放送)

午後6時、開店だ。行列で冷え切った客の体に熱いスープが染み渡る。

鶏ガラスープの醤油ラーメン15ドル、自家製のラー油を利かせたパイタン麺17ドル。強気の価格設定にもかかわらず、お客は引きも切らない。常連客の中には週に3回通う客や、一度に3杯以上食べるという猛者もいた。

【客】「いつ来ても満足して帰るよ。食べ終わると幸せいっぱいの気分なんだ」
【客】「こんなにおいしいラーメンはないと、みんなに言ってるの」

2時間の営業を終えると、午後9時前にはスタッフを連れて、外の店に夕食をとりに行った。スタッフとのコミュニケーションを大事にするやり方は、どこか日本的とも言える。

【大西】「店員が疲弊してるのが伝わったら、お客さんもそういう店で食べたくないと思うんです。まずは僕らが元気で働ける環境作り。そういうライフスタイルを実現したい」

これは自身が今まで背負ってきた苦労からにじむ本音かもしれない。大阪出身の大西はラーメンを描いた映画『タンポポ』に感動し、31歳で地元に「鶴麺」をオープンさせた。7年後、ハワイに進出したが商売は立ち行かなかった。2年後ノースカロライナでも失敗し、借金を背負った。追い打ちをかけるように父親がガンで帰らぬ人に……。

せめてもの救いがラーメンだった。

【大西】「(父親は)食が細くなっていくのに僕のラーメンを食べてくれた。僕のラーメンなら食べられるというあの経験が、おいしいもので人を幸せにする僕のその思いを決定づけた」

新作考案のために京都とポートランドへ

2018年4月の開業から200日が過ぎ、「シーズン1」と位置付けていた期間が終わった。201日目からスタートする「シーズン2」は2週間後だ。それまでに新作のラーメンを考案しなればならない。

「シーズン1」の期間が終わった(写真提供=毎日放送)

日本に一時帰国した大西さんが向かったのは、京都だった。昔からつきあいのある料亭「菊乃井」本店の料理人・村田吉弘さんは日本料理を世界に広げてきた第一人者だ。彼は料理で大切なことは《香り、テクスチャー(食感)、WOW!(驚き)》の3つだと言う。

【村田】「結局驚きがなかったらもう食べる気せえへんやん。印象に残すためにはね。記憶のバンクがめくれるようにせなあかん。香りをガーンといかんと記憶に残らへんねん」

アメリカに戻ると、新作のための食材を求めて北を目指した。テーマは「香り」だ。

ボストンから電車で2時間半のポートランドに足を運び、新鮮なウニや、アメリカではなかなか見られないナマコを手に取り検討を重ねた結果、たどりついたのが干松茸。香りは申し分なく、だしもとれそうだ。

「松茸で勝負する」方針は決まった。