このように、他社にはないわが社「らしさ」がブランドアイデンティティであり、ブランド戦略の中核に据えるべきです。

例えば、エルメスの「らしさ」は馬です。エルメスは1837年の創業以来、鞍を中心とした馬具をつくってきましたが、19世紀末に自動車が登場したことにより、「馬車は自動車に取って代わられるから、自動車旅行に使える鞄をつくろう」と、鞍づくりの技術を生かした丈夫な鞄をつくるようになり、評判を得ました。今でも、スカーフの図柄の半分は馬、馬車、馬具など馬由来のものにこだわっています。

逆転の発想で、ブランド価値は高まる

ラグジュアリーブランドを育てるには、従来型のマスマーケティングとは全く異なるアプローチを取る必要があります。それが、「ラグジュアリー戦略」です。ヨーロッパのラグジュアリーブランドが、この40年でファミリービジネスや地場産業から成長する過程で実際に取った戦略を体系化したものです。マーケティングの4Pに沿って説明しましょう。

PRODUCT(製品)は、常識では十分な品質がよいとされています。過剰な品質はコストアップにつながるため、よいとはみなされません。それに対してラグジュアリー戦略では、十分を上回る卓越した品質、言わば過剰品質が求められます。こだわりの品質、物語のある製品とも言えます。

PRICE(価格)は、一般には低価格のほうがよいとされます。しかし、ラグジュアリー戦略では高価格です。手間暇をかけている分、それに相応しい価格(=適正価格)を設定します。

PLACE(流通チャネル)は、スーパーマーケットやネット通販などの広い流通チャネルを使うのが常識です。しかし、ラグジュアリー戦略では限定された流通チャネルを使います。もっと言えば、流通を支配し、支配できないチャネルは用いません。例えば、世界の大都市の目抜き通りに旗艦店をつくる代わりに、店舗数を絞ります。

PROMOTION(プロモーション)は、通常は大量の広告を流しますが、ラグジュアリー戦略では広告よりもパブリシティ(メディアに取り上げられること)を重視します。ファッション誌などの表紙をめくると、大抵ラグジュアリーブランドの広告が掲載されていますが、これはメディアと良好な関係を築くためです。また、広告自体も売るためというより、ブランドのイメージを伝えるものになっています。