原因3、個人の業務量が可視化されていない組織
組織が拡大すれば拡大するほど、個人が負担している業務量を上司が把握しにくくなる。スピードのある経営判断が求められる昨今においては、この傾向がとくに顕著だ。やる気のある社長ほど「あれもこれもやってみたい」という気持ちになるものだ。それにともない社長の発想を実現していく社員の業務量は、幾何級数的に増殖していく。業務量とは、自己増殖するものだ。
しかも各自が担当している業務量は、周囲からはなかなか見えないものである。テキパキ処理している社員に限って「まだ余裕ありそうだから、これもお願い」と言われてしまう。それに対して「自分にはまだやるべきことがあります」とキッパリと言える人ならいいが、まじめな人やおとなしい人ほどなかなか断ることができない。しんどいなと感じつつも「わかりました」と回答して、さらに雑務が増えていく悪循環になる。
優秀な人ほど雑務が増えてしまうのは、このように周囲の負担をひとりで抱え込んでしまう状況に陥ってしまうからだ。そういった雑務処理を評価してもらえればまだましだが、実際には評価対象にならないことがほとんどだ。組織では、日々の業務を粛々とこなす人よりも、理想やアイデアを根拠なき自信のもとで語るだけの人が評価されてしまうことがある。語るだけ語って、いざ実行となると「誰かやっておいてね」となるから困ったものだ。特定のまじめな社員の犠牲のもとで組織が回るような事態を生じさせないために、業務量は、周囲からわかるようにいちど可視化してみるべきだ。
このような原因を前提にしたうえで、企業としていかなる工夫をするべきかについて考えてみよう。まずお勧めするのが、人事評価の基準を整理してみることだ。中小企業では、とかく社長の印象だけで評価されることが多い。これでは“社長に気に入られるかどうか”というあいまいな基準しかないことになる。このようなあいまいな基準では、社員としても頑張る方向性がまったくわからない。「とりあえず社長の覚えのいい上司の真似でもするか」ということになる。
人事評価をする際には、部下に対する指導についても評価として明確にするべきだ。日本では、この指導という点についての評価があまりにも低い。短期的な達成度だけで評価するために、時間を要する育成というものを重要視していないのだろう。
また、プロジェクトを任せるときには、責任者、予算、期限及びゴールを明確にしておくべきだ。プロジェクトリーダーの中でもっとも困るのは、スタートしたときにはやる気にみちているのに、すぐに飽きてしまって部下に丸投げしてしまうタイプだ。こういうタイプの人に限って、色々なビジネス理論を語るのが好きだが、コツコツ何かをすることは苦手で自分の役割ではないと考える傾向がある。
しかも別の新しいものを耳にすると、そそくさとそちらに顔を出す。これでは、部下としても不満が募るばかりだ。「あなたが責任者で制限要因の中で、ゴールを達成しなければならない」ということをしっかり伝え同意を得たうえで、プロジェクトを任せるべきだ。
きちんと努力をした人がきちんと評価される。あたりまえのことのようではあるが、実現するのは容易なことではない。社長としては、自社の組織をさらに強化するために、人事評価の在り方や指示の出し方について、参考にしていただきたい。