相手を論破して、優位に立とうとする「マウンティング」。その場では気持ちいいかもしれないが、そこには大きなリスクがある。お笑い芸人・髭男爵の山田ルイ53世さんは、営業先で「拙い芸ではございますが……」と一言添えることを意識しているという。その狙いはリスクを小さくすることだ。同い年の社会学者・田中俊之さんとの「中年男再生」対談をお届けしよう――。

※本稿は、田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)の第4章「僕らどうやって生きていこう? 仕事と生き方論」を再編集したものです。

「相手に合わせる」中年ならではのスキル

【山田】ここ数年、意識してることがあって。企業パーティーのようなアウェーな状況でネタをやるとき、最初に「拙い芸ではございますが……」って礼儀正しく一言添えると、すごくやりやすくなる。ザワザワはしてるんですけど、会場の“聞いてくれてる感”が明らかに増すんです。少なくともヤジは減りますね。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/PeopleImages)

【田中】そうなんですね。

【山田】「一緒にこの場を盛り上げていきましょう」みたいな仲間意識が芽生えるんですよね。でも、そういうのを今から賞レースに挑むような若手芸人がやる必要はまったくない。フォームが崩れてしまうのでダメです。僕らはもう、フォームが崩れた後だから関係ないので(笑)。こういうのも、おっさんならではのスキルですね。

【田中】参考になります。自分のスタイルを押し出すのではなくて、相手に合わせていく。その場にいる方々に対してリスペクトを表明することで、反応が変わってくるわけですよね。

【山田】やっぱり相手の現場ですからね。自分たちのネタがどうこうっていうよりも、その場を立ててあげるのは重要かも。まあ、とてつもない実力を持った面白い芸人だったら、笑いでねじ伏せられるので許されるんでしょうけど。でも、そこまででないのなら、きちんと礼儀を尽くしたほうが得です。

丁寧に始めれば、後はなんとかなる

【田中】そうですよね。社交辞令だとしても、まず「このような貴重な場に呼んでいただいて、ありがとうございます」と言っておくことで、ハードルは下がりますよね。確かに僕も、地方で講演するときなどは、まずその土地のことを調べておいて、少しそのことに触れてから話を始めるだけで、ずいぶん反応がよくなります。「自分たちを見てくれている」感が出るので、お客さんが仲間意識を持って聞いてくれるんです。そういうツカミって大事だと思います。

【山田】そうなんですよ。あと、丁寧な感じで始めると、もうひとついいことがあって。それは、後半に社長の頭をどつけるようになる(笑)。

【田中】そうなんですか。

【山田】それが許される。丁寧に始めれば、ちゃんとわかってくれるんですよ。僕、結構な数の企業の社長と、市長の頭をどついてますから(笑)。逆に、「相手の場だ」という意識が欠けていると、お客さんもピリピリします。それはやっぱり損だと思うんです。おじさんがそういう場に行って話すときは、できる限り丁寧に始めて、それからだんだん過激にしていけばいい。