論破より“波風立たせない”ほうが難しい

【田中】まずは相手に合わせて、それから自分を出すというのは、若いうちにはなかなかできない中年ならではのスタイルだと思います。

田中俊之・山田ルイ53世『中年男ルネッサンス』(イースト新書)

【山田】パーティーでは、礼儀正しさとともに、あくまでそこにいる人たちに寄り添ったネタがいいんですよ。さっきも言ったように、自分たちの世界観を見せるのではなくて、あくまで目の前にいるその人たちの日常にそっと手を入れて、みんながなんとなく感じていることをゴニョゴニョッと触ってあげるのが一番いいんです。

【田中】主役はネタをやっている自分たちではなく、その場にいる人たち全員、ということですよね。そういうスキルって、もっと高く評価されてもいい気がします。論破に代表されるように、「言葉でいかに相手をねじ伏せるか」に魅力を感じる男性って多いんです。でも、論破は一方通行だからコミュニケーションですらありませんし、相手のことを考えないでいいから実は簡単なんです。

それより、いかに波風立てずに面白さを加えるか、相手を不快にさせないか、といったことのほうが難しいですよね。普通の人にとっては、むしろそっちのスキルのほうが役に立つし、みんな苦労しているところだと思いますよ。セクハラやパワハラが社会的に注目を浴びていますが、おじさんたちのコミュニケーション能力の低さが問題の根底にはあるかもしれません。

論破する=自分のハードルを上げてしまう

【山田】なるほど。もしかすると、想像力の欠如というのもあるかも。論破する、相手をねじ伏せる、勝つということは、どうしても遺恨が残る。いつ相手からしっぺ返しを食らうかわからない状態を抱えることになりますし、やり返されないためには、勝ち続けないとダメ。それはほとんどの場合、無理ですから。大体、論破する、マウントを取るっていうことは、その後あらゆる面で自分のハードルを上げてしまうってことですからね。その煩わしさを考えれば、「論破したら負け=失敗」くらいに思ったほうがいいかもしれない。

【田中】その通りだと思います。男社会は競争を通じた上下関係が基本ですから、これまでは一方通行でもやってこられたかもしれません。でも、現代の日本でまさに問われているのは、こういうやり方の暴力性なんです。