お客さんをイジったあとは必ずフォローする

【田中】お笑いって、自分の立ち位置を客観的に把握しておかないと務まらないところがありますよね。

【山田】「自分がどう見られているか」みたいなところもそうですけど、一番大事なのは、見てくれている大半の人に気持ちよくなっていただく、というのが大目標ですから。できたら「大半」じゃなくて「全員」がいいんですけど。だからたとえば、その場にいるお客さんをイジるにしても、若い芸人の場合だと、ディスってそのまま、くさしっぱなしみたいなことがあるんです。

確かにウケるんですけど、その人に限っては気分を害したままの可能性があるし、僕らが去った後、周りから「めちゃくちゃ言われてたな」みたいな感じで、セカンドレイプ的にさらなるイジりを受ける可能性もあるじゃないですか。そういう意味で気配りが必要なんですが、若いとそれができない。その点、我々おじさんは、それがもうバランスよく、苦もなくできる。

【田中】たとえばどんな感じでフォローするんですか?

【山田】きつめにイジった後に「いや、助かりましたー!」と口に出してもいいですし、手でOKマークを作って、(面白かったよ、ありがとねー!)とみんなに見えるようにアピールしてもいい。要は、「この笑いはこの人の手柄だよ」と、しっかりみんなに提示するんです。あるいは舞台の終盤、帰りがけにその方に何かサイン色紙なりをプレゼントするとか。……こうやってあらためて言うと、とんだ汚れ芸人ですが(笑)。

やりっぱなしにしないほうが「得」

【田中】いやいや! その場を仕切っている人から気を配ってもらえるのは、嬉しいですよ。僕が『上沼・高田のクギズケ!』(日テレ系)に出演した際に、こんなことがありました。収録中、上沼恵美子さんに僕がやり込められるような場面があったんですが、収録が終わったら、わざわざ上沼さんが僕のところまで来て、「田中さん、ごめんね。ちょっときつかったけど」と言ってくれたんです。

【山田】それはしみますねー!

【田中】確かに、言い負かされた感じにはなっていたんですが、あくまで面白おかしくだったので、僕はそこまで気にしていませんでした。でも、相手が嫌な思いをしたかもしれないと自分が感じたから、フォローをしようということですよね。

【山田】ええ人だなって思いますよね。

【田中】まだ3回ぐらいしかお会いしていないのに、名前を覚えてくれて、フォローまでしてくれて本当にありがたいです。芸能人の方と違って、僕らみたいな素人は、素人だからこそ「今日はきつく言われたな」とか「うまくしゃべれなかったな」とかショックを受けることもありますからね。

【山田】やっぱりそういう方々は、結局そう振る舞うことが最終的には得だって知ってる気がしますね。

【田中】なるほど。できない人もいますもんね、わかっていても。

【山田】しょうもないプライドがある人間だとできない。プロですよね、できるのは。

田中俊之(たなか・としゆき)
社会学者
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。
山田ルイ53世
お笑い芸人
本名・山田順三。1975年生まれ。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。地元名門中学に進学するも、引きこもりになる。大検合格を経て愛媛大学入学、その後中退し上京、芸人の道へ。雑誌連載「一発屋芸人列伝」で第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞「作品賞」を受賞。同連載をまとめた単行本『一発屋芸人列伝』(新潮社)がベストセラーに。