1カ月半の実践で新人が身につけたこの「質問力」!

ここからは事例を通じて、「すきま時間プログラム」の継続が、顧客接点現場にどんな好ましい変化をもたらすのかを説明していこう。最初はスタッフ個人の変化を見てみたい。

女性向けブランドを中心に展開するアパレル企業、サンエー・インターナショナル。30代後半以上の成熟した女性をターゲットに、表参道ヒルズや六本木ヒルズなどにも出店する同社のアドーア事業部は、2008年秋冬シーズンから「すきま時間プログラム」を導入している。

プログラム参加者の中に、ファッション販売未経験で、店頭に立ったその週からプログラムを始めた新人スタッフがいた。このスタッフは最初のケースで、「わざわざ試着いただいたのに、もっとお話を聞いて、希望に沿える商品をご提案すべきだった」「ワークシートの点検項目を振り返ると、お客さまについて観察も会話もほとんどできていなかったことに気づいた」という経験をした。その後は「お客さまの着衣や小物のブランドを観察し、少しでも好みを把握しよう」「ひとつでも多く、来店の背景を会話からくみ取ろう」と努力し、毎日ワークシートに向かって接客を振り返ることを心掛けた。

地道な取り組みを積み重ねた1カ月半後、このスタッフは次のような素晴らしい接客ができるようになった。ある土曜の午後、40代の管理職を務める女性客を担当した。これまでに何度か接客したことのある顧客だ。今回の来店中の会話から、この女性客は、ある人気女性アナウンサーがアドーア愛用者であることを知っていて、いつも出演番組での服装をチェックしていること、女性客自身も有名ネイルサロンに通っていることを聞き出せた。そこで、「トレンドに敏感なお客さまではないか」と仮説を立て、トレンド感の高い商品の提案を試みた。試着した女性客は即決でその商品を購入。さらに喜んだ女性客から「以前購入したアドーアの服を着て会社に行ったら、部下から素敵だとほめられた。そこでアドーアを部下たちに紹介したところ、そのうちの何人かは実際に来店している」という話も聞くことができた。

この会話は、アドーアの重要顧客層のひとつである、トレンドに敏感なキャリア女性がアドーアに期待していること、すなわち「この顧客がアドーアの服に感じている価値」という、最も重要な情報をキャッチできたことを意味している。プログラムの実践を通じて、新人スタッフでもこうした重要な会話の機会を顧客ともてるようになるのだ。

「すきま時間プログラム」はスタッフ個々だけでなく、チーム全体のサービス力も向上させる。次に“デパ地下の最高峰”とも称される、伊勢丹新宿店・地下食品フロアの取り組みから、チーム力向上の事例を紹介する。

この地下食品フロアでは、約160社の出店企業に所属する店長や販売スタッフが「すきま時間プログラム」に取り組んでいる。総菜店の柿安ダイニングはそのうちの1店で、店長とチーフ、そして30人を超す販売スタッフが、去年から断続的にこのプログラムを実践している。同店が今力を入れているのは、素材にこだわった野菜を使ったサラダや総菜だ。これらのメニューは食品の安全性の観点から、小さい子どもをもつ顧客に人気があることはわかっていた。「ですが、接客中の会話の中で、さりげなく自然にお子さんがいらっしゃるかどうかを聞き出すのはなかなか難しい」と店長。プログラムをきっかけに、自然な聞き出し方をスタッフたちが試行錯誤し、うまくいった聞き方が共有されるようになった。

「何よりこうした試行錯誤を、スタッフが楽しみながら行っていることが素晴らしい」と店長は評価している。

牛肉の佃煮を販売する浅草今半では、TVなどを見て来店してくれるが、牛肉の佃煮をこれまで食べたことがないという若者に、商品の魅力をどう伝えるかが課題だという。「若い方でも、昔ながらの濃い味つけの佃煮をイメージしているのか、薄味がお好みの方なのか、そのあたりは会話をしてみないとわからない」と店長。「メンバーとこのプログラムをやってみたら、販売スタッフ同士の会話がレベルアップした。仕事が楽しくできる」。