スーパーマーケットで個展を開催
昨年末、田中はスーパーマーケットに作品を展示して個展を開くという初の挑戦をした。鮮魚売り場には魚のしょうゆ入れをマグロに見立てた作品、精肉売り場には肉の上でビキニギャルが日焼けをしている作品、パンコーナーにはクロワッサンの雲の上で人々が憩う作品を展示した。
田中は個展への思いをこう語った。
【田中】「スーパーマーケットで展示するなんてありえないと一瞬思うけど、そこは逆に絶対にやった方がいい。“日常に即しているものをいかに崇高に持ち上げるか”が見立ての面白さ」
そんな思いとは裏腹に、展示に気づくお客が少ない。なぜか。誰もが買い物を目的に来ているからだ。その上、特に大きな告知もしていない。作品の存在に気づかれもしない状況に、田中の表情から笑みが消えた。
それでもしぶとく現場を離れない……その時だった。
1人の客がスマホで作品を撮り始めた。別の場所ではクスクス笑う客もいる。スーパーマーケットのそこかしこから小さく聞こえ始めた「いいね!」の声に、田中も安堵の表情を浮かべた。
「今の自分」をミニチュア作品に見立てると……
番組は田中に「今の田中自身をミニチュア作品に見立てて表現してほしい」と依頼をした。田中が取り出したのはスキージャンパーの人形だ。完成したのは、携帯のスクリーンを雪山の斜面に見立て、その上で飛距離を伸ばしていくスキージャンパーの姿だった。スクリーンには、これまで投稿してきた作品が過去から未来へ流れるように再生されている。
題して「K点越えというより携帯越え」。飛び続けるジャンパーには田中の決意が表れている。
【田中】「どこまで着陸せずに飛び続けるかということが今後の目標ですかね」
8年間休まずに続けてきた投稿を、これからもまだまだ続けるつもりだ。
ミニチュア写真家
1981年熊本県生まれ。ミニチュアの視点で、日常に存在する物を別の物に見立て、独自の視点で切り取った写真「MINIATURE CALENDAR」がインターネット上で人気を呼び、雑誌やテレビなどのメディアでも広く話題に。2017年NHK朝の連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバックを担当。写真集に『MINIATURE LIFE』『MINIATURE LIFE2』『Small Wonders』などがある。鹿児島県にある自宅兼工房で、妻と息子2人と暮らす。37歳。