精神療法の中でも特に有効なのが、「認知行動療法」で、医師や臨床心理士などの専門家の指導を受けながら行われ、高齢者でも取り組むことができる。例えば、うつ病になりやすい思考パターンのひとつに「べき思考」がある。若い頃の当たり前を引きずって、「こうあるべき」と理想を掲げたけれど、年を重ねてできなくなって挫折し、うつ病に繋がることが少なくない。そこで、努力してもどうにもならないことがあるという思考パターンに変えて、何かできないことがあっても、「ここまでできたのだから十分だ」という考え方にして、心を楽にして過ごせるようにするわけだ。

また、妄想や自殺願望など、症状が重く、抗うつ薬が効かない場合に行う「電気けいれん療法」は、1カ月程度の入院が必要で、10~12回程度の治療を行う。重症例でも顕著な回復が見られるそうだ。

家庭でできる老親のうつ病予防法や治療法について、三村教授はこう説明する。

「まずは誰かとよく話をすることが重要です。自分の気持ちを話せずにいるとストレスを溜めてしまいがちです。それから、規則正しい生活。睡眠や食事をしっかりとり、体も動かしましょう。体操や散歩でも十分で、朝の太陽の光を浴びることも簡単に始められます」

日常生活では、生活リズムを整えることを意識することが大切。「病気がちだから」と家に引きこもらないで、外に目を向けよう。無理のない範囲でボランティア活動に取り組んだり、勉強会・講演会などに参加してみたりして、人間関係を広げることは、うつ病の改善に有効だ。

また、うつ病の予防や治療では、家族の協力が欠かせないと三村教授は説く。

「ご家族の方は、親御さんの話を面倒くさがらずに聞いてあげましょう。嫌なことを言われても決して説教をしたり、自分の意見を押し付けたりしないでください。対話のコツは、聞き役に徹することです」

老親との会話の中では、「体調が悪い」と言われることが多いが「辛いよね」と共感し労ってあげたい。「死にたい」などの死にまつわる話題も拒まずに「死んでほしくない。大変でも生きていてほしい」と伝え、何が気にかかっているのか聞き取ってあげよう。実家が離れていて実際に会って話をすることが少ないのなら、電話でもいいので、コミュニケーションの機会を増やそう。親がうつ病にならないよう、またうつ病になってしまったら一日も早く元気になれるように、根気よくサポートしてあげてほしい。

三村 將
慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室教授
認知症と見分けにくい「老年期うつ病」がよくわかる本』(講談社)を監修。