配偶者の死別やペットロスで、うつ病が発症

うつ病が発症するきっかけの1つは「喪失体験」だと三村教授は説明する。

「うつ病はきっかけがなくてもなる病気ですが、当たり前ですが、きっかけがあったほうがなりやすい。高齢者は身近な人と死別するなどの喪失体験が多くなり、ストレスがかかってうつ病にかかりやすいと言えます」

典型的なのが、長年連れ添った配偶者を亡くすケース。精神的な衝撃は大きく、毎日の生活も一変する。年の近い兄弟や親友が亡くなっても、心理的に強いダメージを受ける。最近では、かわいがっていたペットの死で「ペットロス」に陥る高齢者も目にするようになった。

「大病を患って体が不自由になり、生きていく自信を失って、うつ病になってしまう高齢者もいます。また、定年退職した男性は、生きがいだった仕事から遠ざかり、職場の人間関係も切れて孤立してしまうため、うつ病を発症するケースが少なくありません。生活環境の大きな変化も、精神的なストレスとなり、うつ病の引き金になります。子どもと同居したり、介護施設に入所したりするために、住み慣れた家から引っ越しをした後で、うつ病になる高齢者もいます」(三村教授)

三村教授は続けて、うつ病の症状について説明する。

「1つは抑うつ気分で、気持ちがひどく落ち込んで、何ごとにも悲観的になります。もう1つは、『何もやる気が起こらない』『何をしてもつまらない』といった生気感情の喪失です。不眠や強い不安感、食欲不振なども、代表的なうつ病の症状と言っていいでしょう。うつ病が進行すると、自分を無価値な人間と感じて自殺願望を抱くこともあり、注意が必要です」

治らない不調、本当の原因はうつ病かも

高齢者の多くは、ほかの病気も抱えていて様々な症状や体の不調を訴えるので、若者と比べて、うつ病なのかを見極めるのが難しいことも少なくないと三村教授は指摘する。

「高齢者の場合、精神症状よりも身体症状のほうが強く現れることもあります。腰痛や頭痛、耳鳴りといった症状が、内科等で治療を受けても一向に改善しないが、精神科を受診したら『うつ病』と診断されるケースもあります」

また、高齢者の場合に特に注意したいのが、本当はうつ病なのに、認知症と勘違いしてしまうこと。というのも、うつ病と認知症は症状が類似していることが多い。例えば、うつ病でよく見られるアパシー(無気力状態)や不眠が、認知症でも現れることがある。また、物忘れなどの記憶障害、計算の間違いなどの認知機能の低下は、認知症の典型的な症状だが、うつ病でも起こりうる。