中・長期的にキャリアを位置づける
ここまでみてくるとわかるように、プロティアン・キャリアでは、人生全体の中でキャリアを位置付けています。
ただし、希望の職種ではなくても働き続けなければならない人々、組織に従属しながら働き続けている人々、退職後に仕事とは全く異なる静かな暮らしを求める人々、これらの人々にプロティアン・キャリアを強要することは許されません。
さらに言えば、プロティアン・キャリアとは、突然変異的に築けるものでもありません。まずは今、自らが身を置く組織の中で、主体的に何ができるのか。組織や組織を越えたさまざまな関係性を捉え直し、中・長期でのライフプランを描きます。意識的・計画的・戦略的に行動を重ねて経験資産を蓄えながら、その資産を社会や組織の変化にすり合わせていく日々の営みのことなのです。
プロティアン・キャリアとは、何かを成し遂げた「結果」をキャリアとして捉えるのではなく、経験資産を積み重ねていく「過程」を、主体的に受け止めていくことでもあります。自ら主体的にキャリアを選択しようとする人々にとっての、100年人生を豊かに生き抜く術になるのです。
法政大学 キャリアデザイン学部 教授
1976年生まれ。博士(社会学)。一橋大学大学院社会学研究科博士課程を経て、メルボルン大学、カリフォルニア大学バークレー校で客員研究員をつとめ、2008年に帰国。専攻は社会学、ライフキャリア論。著書に『先生は教えてくれない就活のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『先生は教えてくれない大学のトリセツ』(ちくまプリマー新書)、『ルポ 不法移民――アメリカ国境を越えた男たち』(岩波新書)など他十数冊。Original Point 株式会社 社外顧問。