定年を迎えたシニア社員は、65歳まで継続雇用されるようになった。今後は70歳まで延長される可能性もある。だがシニア社員の働く意欲は低い。定年前と仕事内容は同じなのに、給与は低いからだ。日本総研の小島明子さんは「意欲低下を放置すると、若い現役社員に悪影響が出る。企業は早めに手を打つべきだ」と指摘する――。
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継続雇用「60歳以上」がしょぼくれてしまう深刻理由

2018年10月22日、総理大臣官邸で「第20回未来投資会議」が開催されました。会議では安倍首相が、「65歳以上への継続雇用年齢の引き上げについては、70歳までの就業機会の確保を図り、高齢者の希望・特性に応じて、多様な選択肢を許容する方向で検討していきたいと思います」というメッセージを発信しました。

労働人口が減少する中、働く意欲のある人たちがいつまでも働ける環境づくりを行っていくことはもはや「国策」と言えます。

しかし現状、60歳以上の働くモチベーションは高くないようです。多くの企業では、定年年齢を過ぎると部下がいなくなり、賃金が下がり、閑職に飛ばされてしまいます。そのため高い意欲を持ちづらいのです。シニア社員をそうした状態のまま放置していていいのでしょうか。

【1:仕事内容は同じなのに、収入だけが下がる】

2012年に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」が改正され、定年年齢を65歳未満に定めている事業主は、「65歳までの定年の引き上げ」「65歳までの継続雇用制度の導入」「定年の廃止」のいずれかの措置を取ることが求められています。

厚生労働省の「就労条件総合調査」(2017年版)によれば、定年制を定めている企業は95.5%に上り、そのうち、定年後の再雇用制度を選択している企業が72.2%を占めています。過半の企業が定年退職をした従業員を、定年前とは異なる雇用形態で再雇用しているのです。

労働政策研究・研修機構の「60代の雇用・生活調査」(2015年7月)によれば、定年後に継続雇用された235万2000人のうち、「仕事内容が変化していない」は50.7%、「同じ分野の業務ではあるが責任の重さが変わった」は34.8%でしたが、「賃金が低下した」は80.3%でした。

つまり継続雇用では多くの人が、賃金は低下したが、仕事内容は定年前と同じことがうかがえます。賃金が下がった人の中には、「仕事内容が変わっていないのに賃金が下がるのはおかしい」と回答した人も約3割います。