自分が言われてうれしい褒め方をしているか

「しかし、子どもの算数ならともかく、一体、(仕事のできない)部下のどこを、何を、褒めればいいのか?」と思った人もいるかもしれません。そこで、ちょっと考えてみてください。あなたは次のどちらの言葉のほうが、言われてうれしく感じますか? いずれも、尊敬するリーダーからの言葉だと考えてください。

1.「新規契約を3つも取ってくるなんて、すばらしい!」
2.「新規契約を3つも取ったのか! みんなが見ていないところでたくさんの努力をしたんだね。すばらしい!」

いかがでしょう? おそらく、多くの人が2を選んだのではないでしょうか。

1は「結果」に対して賞賛の言葉を贈っていますが、2は「努力」「プロセス」を賞賛しています。実際、努力の過程を褒めることで、より相手のモチベーションを引き出すことができるといわれています。

コロンビア大学で1990年代に行なわれた、褒め方についての有名な実験をご紹介しましょう。この実験では、小学生400人を対象に簡単なIQテストを行ない、その結果の伝え方を3パターンに分けました。

1.「80点も取れたなんて、頭が良いね!」(結果や知能を褒める)
2.「80点でした」(褒め言葉は特になし)
3.「80点も取れたのは、頑張ったからだね」(頑張りを褒める)

その後、2回目のテストで難易度が「A:1回目より難しい問題」と「B:1回目と同じくらい簡単な問題」の好きなほうを選ばせたところ、「頭がいい」と褒められた1のグループの約65%、特に褒められなかった2のグループの約45%がBの「簡単な問題」のほうを選びました。そして頑張りを褒められた3のグループは、実に約90%がAの「難しい問題」のほうを選んだのです。

結果を褒められると失敗が怖くなる

この実験を行なったクラウディア・ミューラー氏とキャロル・デュエック氏は、「結果や知能を褒められると気分が良くなる反面、失敗を恐れる気持ちが生まれるのだ」と指摘しています。チャレンジする気持ちが生まれにくくなるとも言えるでしょう。

一方、努力やプロセスを褒められると、行動したことそのものを肯定されたような気がして、失敗を恐れずに挑戦できるようになります。仮に失敗したとしても、単に努力が足りなかっただけだと理解し、また努力することができるのです。

つまり、部下を褒める際には、必ずしもその部下が「結果を出している」必要はない、ということです。