外国人と生活することに慣れる必要がある
私見では、十分な日本語能力と日本社会への理解があり、安定的な職を有している善良な外国人であれば、必ずしも高度な専門的技術的なスキルを要さずとも、定住権・永住権を段階的に付与していっていいのではないかと考える。
しかし、その大前提として、日本人が外国人と生活することに慣れ、自然体での対応ができることが必要である。外国人への接点が少ない状況下でいきなり大量に永住権を認めることは、無用の混乱を招きかねない。そうした意味で、受入れのペースは極めて重要なのである。
政府は「外国人の受け入れ環境の整備」として、外国人の多言語での生活相談の対応や日本語教育の充実をはじめとする生活環境の整備のため、法務省が総合調整機能をもって関係省庁、地方自治体等との連携を強化する、としている。現時点でその内容は必ずしも定かではないが、国としては、地域住民との共生に国・企業・自治体が連携して取り組むなど、基本的な考え方を明示すべきである。
そのうえで、国・企業・自治体のそれぞれの役割を具体的に規定し、受入れ推進にあたっての多面的な課題に「エアポケット」が生じない形で着実に進めていくよう、各主体間の連携を図っていくことが求められる。
さらに、国の総合調整機能は重要だが、肝要なのは地域の主体的な取り組みをどう進めるかである。外国人労働者の受入れはメリット・デメリット両面あるわけで、地域の産業界・自治体・住民がコスト・ベネフィットを考え、産業維持と共生の両面を含めて地域こそが主体的に取り組むべきものだからである。
その仕掛けとしては、住民・自治体が主体的に関わる外国人受入れ地域協議会のような仕組みを地域ごとに作り、国内での先進地域の経験を踏まえつつ、国が全体調整・アドバイスを行う枠組みを整備することが求められよう。
今回の入管法改正は、外国人労働者を正面から受け入れるための包括的制度改革のあくまで出発点として位置づけ、今後残された課題に丁寧に対応していく必要があるだろう。
日本総合研究所 理事/主席研究員
1987年京都大学経済学部卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)入行。93年4月より日本総合研究所に出向。2011年、調査部長、チーフエコノミスト。2017年7月より現職。15年京都大学博士(経済学)。法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科兼任講師。主な著書に『失業なき雇用流動化』(慶應義塾大学出版会)