「ゴーン・チルドレン」の西川社長はなぜ掌を返したのか
カルロス・ゴーン会長の逮捕容疑は2010年度から5年間の役員報酬が実際は99億9800万円だったのに49億8700万円と有価証券報告書にうその記述をしていた疑い。多額な役員報酬に対する社会的な批判をかわすため、海外の高級マンションなどの形で毎年10億円程度の便宜供与を受けていた模様だ。発覚したのは日産社内の内部通報制度による内部告発だった。
もしもゴーン氏が東京地検特捜部の発表内容通りに不法行為を実行していたとしたら、企業経営者としてはあるまじき行為である。1999年以降、19年にわたり日産トップに君臨し、最近では独断専横が目立つ絶対的な権力者となっていたゴーン氏。そのゴーン氏を西川広人社長ら経営陣が数カ月の社内調査でトップの座から追い落とした形である。
西川社長はゴーン氏に目をかけられ、引き上げられた「ゴーン・チルドレン」の一人。その西川氏が掌を返したように歯向かったのはなぜだろうか。
ゴーン氏と仏政府の「密約」から疑心暗鬼が生まれた
日産の社内事情に詳しい自動車業界の元メーカー役員はこう説明する。
「今年2月にルノーの大株主であるフランス政府との間で、ゴーン氏がルノーCEOの任期を2022年まで延期することが決まった時に『密約』が交わされたのではないかと日産社内で噂された。そのころから疑心暗鬼が西川社長らに生まれ、それまでの関係がぎくしゃくし始めたとみられている」
少し説明が必要である。1999年に日産はルノーから6430億円の出資を受けるとともにゴーン氏らが経営陣に加わり再建を目指した。当時のルノーの日産株の持ち株比率は36.8%だったが、その後43.4%に引き上げられた。一方、日産はルノー株を15%保有している。
倒産さえ危ぶまれた日産を救済したのがルノーだったが、企業規模や保有する技術などを比較すると、日産の方が優位に立っているという思いが日産側には常にあった。両社のアライアンスが進み、業績が回復してくると日産側にはルノーに対し、日産の利益が大株主であるルノーに吸い取られているという思いが強くなっていった。