ルノーの経営にとって日産はなくてはならない存在

最近ではルノーの純利益の半分程度は日産からの利益であり、ルノーの経営にとって日産はなくてはならない存在だった。

ルノー株の15%を持つ大株主であるフランス政府は徐々に日産とルノーを統合させて、ルノーの経営を盤石にしたいと考えるようになり、2014年ごろから揺さぶりをかけ始めた。2015年には2年以上保有する株式の議決権を2倍にする「フロランジュ法」が制定され、フランス政府が30%の議決権を行使し、ルノーと日産の経営に強く関与する構えを見せた。

こうした動きにゴーン氏は日産の経営の独自性維持を主張した。日産にとってゴーン氏は盾の役割を演じていた。

「2022年までにルノーと日産の統合を進める」という密約

ゴーン氏のルノーCEOの任期は2018年までだった。再びフランス政府が動き出した。今年の2月、フランス政府はゴーン氏に3つの条件を提示し、CEOの任期を2022年まで延長することを認めた。3つの条件とは以下の通りだ。

(1)ルノーと日産の関係を不可逆的なものにする
(2)ゴーン氏の後継者を育てる
(3)ルノーの中期計画を達成する

「密約」というのはこの3条件に加え、2022年までにルノーと日産の統合を進めるという内容だった、というのだ。

もしもそんな密約があるなら、当然日産は猛反発する。それまではフランス政府に対し日産の盾となっていたゴーン氏だったが、CEOの任期延長を勝ち取るためにフランス政府に譲歩したのではないかと西川氏らは疑心暗鬼に陥ったという見立てである。

先述した元メーカー役員の発言はこの頃からゴーン氏と西川社長ら日産経営陣との間の関係がぎくしゃくし始めたという解説だった。