何事も人より上でないと嫌で仕方がない人は、なぜダメなのか?

他人の懐事情が気になり、学生時代の友人に比べ、自分のほうが温かかったら誇らしく、寒かったら悔しい。しかし、そんな比較で一喜一憂するのは空しくないか。

「虚栄心と名誉心は、つねに悪いしるしである」

これは哲学者ヒルティの至言だ。

「虚栄心と名誉心のいずれも、人からよく思われたいという気持ちにほかならず、だからこれらが自己否定に基づくものだと指摘しているのです。本当は自分に自信がなく、自分が大したことのない人間だとわかっていて、それを隠すために虚勢を張るわけです」(小川准教授)

他人との比較も根っこは同じだ。

「他人と比較して金持ちになりたい、勝ちたいというのも、ベースには虚栄心や見栄があると思います。要は人からどう見られたいかということです。しかし、上を見ればキリがないですから、常に不安に脅かされ、いつまでも幸せになれません」(同)

他人との比較においては、脳でも独特の動きが見られる。相手が自分よりも格上で、劣等感を抱いたときは、前帯状皮質をはじめとする不安情動や苦痛に関与する部位がより強く活動している。池谷教授は「特に女性は容姿や体形の比較に、男性はステータスに敏感です」と話す。それでダイエットに励んだり、出世競争に血道をあげるのだが、「上には必ず上がいるので、どうしても劣等感にさいなまれます」(池谷教授)。

それなら他人との比較をやめればいいのだが、その際のヒントになるのが、アリストテレスの説く「中庸」だと小川准教授はいう。

「中庸とは『ほどほどな状態』のこと。私流に解釈すれば『60点主義』です。常に100点を目指していては疲れて長続きしないので、ギリギリの合格点を狙うのです。ベストを尽くさなくてもいいという意味ではなく、エネルギーの使い方、ペース配分のことで、思考も同じです。自分を奮い立たせるための他人との比較は最低限必要かもしれませんが、バランスよくニュートラルな状態を保つことが大切なのです」