売りたいのは、情報ではなくモノである
「小売りの立て直し」と聞いてまず思い浮かべるのが、CDショップを取り巻く環境の変化だ。冷え込む一方のCD市場とは対照的に、有料音楽配信はすさまじい伸びを示している。2007年は前年より41%も増え、755億円に達した。内訳で見ると、インターネットダウンロードの売り上げは118%増の59億円、モバイルダウンロードは41%増の680億円。モバイルの伸びは驚異的だ。
業界では、音楽のデータのみの流通をデジタル、CDやアナログレコードなどのパッケージものをフィジカルと呼ぶ。この呼び方にならっていえば、フィジカルがデジタルに押される一方の市場環境に危機感を感じ、タワーレコードは主力のフィジカルのてこ入れに動いた――。高木の就任をそうとらえていたのだが、「テコ入れ」の部分は合っているものの、デジタル優勢の見方は違うという。
高木によれば、フィジカルはいまだに主流であり、今後もそれは変わらないというのである。
「アメリカでもフィジカルがまだ主流ですよ。アーティストはCDという作品を作りたがっていますからね。日本よりはデジタルに取って代わられていますが、まだ稼ぎ頭ではある。日本はもっとそうです。CDパッケージがメインで、デジタルには行かない、メインは入れ替わらないと見ています。日本のデジタル音楽市場は9割が携帯で占められていて、PCは1割程度。携帯での配信は伸びてはいますが、その実態はJ‐POPのチャート上位の曲を聴いているに過ぎないんですよ。あるジャンルを好きになって、もっと深く追求しより深い情報を求める人はやはりフィジカルに行きますね」
アメリカのタワーレコードが廃業した際、日本のメディアの多くはデジタル音楽の攻勢に屈したと報じていたが、これは正しくない。正解は、海外投資の失敗だ。総合スーパーのウォルマート、家電量販店のベストバイ、さらにはネット通販のアマゾンとの合戦にも敗れ、体力を消耗し尽くしたのが実情だ。有料音楽配信うんぬんではなく、フィジカルに負ければ小売業は店を畳むしかないのである。
日本の場合、再販制度があるため、安売りが起きる可能性は(今のところ)ない。アメリカよりは恵まれた環境だ。とはいえ、携帯にダウンロードしたJ?POPの人気曲をきっかけに店頭に目が向きはじめた客を固定化するためにも、小売りの強化は欠かせない。タワーレコードはネット通販にも参入し、トータルでの売り上げは伸びているが、売り上げの柱は圧倒的に店頭だ。
その強化のために指名されたのが、小売業の経験を豊富にもつ高木なのである。