タワーレコードには手書きPOPと並ぶ、もう1つの特徴的な販促物、アートディスプレイがある。商品やアーティストの写真を使って作り上げる陳列物だ。手書きのPOPはCDの情報を客に伝える実用的な意味合いがあるが、このアートディスプレイは客の興味を引き、関心を持たせるアイキャッチャー的な役割を担っている。

アートディスプレイは、発砲ボードや電飾を用いて作成する立体オブジェのアナログディスプレイと、パソコンで加工処理を施しプリントアウトした平面のデジタルディスプレイの2種類。どちらもアートデパートメントに所属するスタッフ約80名が、バイヤーやメーカーからの依頼を受けて製作している。

アナログ、デジタルともに力作揃いだが、特にアナログディスプレイは迫力満点。その製作過程をこの目で見ようと、本社ビル内の工房に足を運んだ。塗料や発砲ボード、ディスプレイの材料として使うアーティストの写真やポスターが散在するそこは、まるで大道具部屋だ。若い社員が熱心に立体オブジェを作る光景は、美大の学園祭の舞台裏を見ているようでもある。

ちなみに、タワーレコードの本社ビルは京浜急行青物横丁駅近くにある。およそタワーレコードのイメージとはミスマッチの超庶民的な場所で、店頭を飾る力作が日々、生み出されている。

見学時には、ちょうど『デトロイト・メタル・シティ』用のアナログディスプレイが製作されていた。チェーン(発泡スチロール製)を巻き付けられ、真っ黒に塗られた突起がボードから飛び出すディスプレイは、いかにもヘビメタらしく、かつタワーレコードらしい。

ディスプレイの数は年間1万2000点前後。材料費と手間がかかるアナログディスプレイのコストは安いものでも5万円、渋谷店の外壁を飾るような大型になると数百万円の費用が発生する。最近ではデジタルの比率が増え、アナログディスプレイの割合は15%に減ってきたが、なくす計画はまったくない。

いま、高木はタワーレコードのミニ業態を検討している。まず立地と入りやすさでライトユーザーを狙う。アメリカで生まれ、日本仕様の小売業に進化したタワーレコードの今後の展開については、プレジデント社刊『論より商い』(三田村蕗子著)をお読みください。

※本連載は、プレジデント社刊『論より商い』(三田村蕗子著)からの抜粋です。

(撮影=向井 渉)