「ストップウォッチ」が最高の集中状態を引き起こす
僕は子どもの頃からストップウオッチを傍らに置いて勉強をする癖がありました。「このドリルを5分で片づける」と自分で決めて一気に集中するのですが、終了後の爽快感は相当なものです。ドリルを終えること、そのものが脳にとっての最高の報酬になるからです。
大人になったいまではストップウオッチがなくても様々な仕事を短時間で仕上げられるようになりました。「タクシーの移動時間20分で原稿を一本仕上げる」といった具合で、この「タイム・プレッシャー」がなければ、現在の僕の仕事は回っていないでしょう。
「タイム・プレッシャー」には、仕事の効率化を図る以上に、最高の集中状態「フロー」を引き起こすメリットもあります。
過集中とも呼べる状態で時間を忘れるほど没頭し、素晴らしい成果を出す、それが「フロー」の状態です。トップレベルの芸術家やアスリートなら頻繁に経験していることです。ちなみに「フロー」の進化系には「ゾーン」という状態もあり、こちらは例えるならフィギュアスケーターが、自ら滑った軌跡が光り輝いて見えるなどの常人には味わえない境地です。トップアスリートでも一生で数回しか経験できないといわれており、非常に貴重な経験です。僕たちは「ゾーン」までは味わえないかもしれませんが、「フロー」状態は訓練で生み出すことができるのです。
ただしここでも大切なのは、あくまで自ら負荷をかけることです。他者からのプレッシャーは新たなストレスにしかならないということです。
なぜ私は毎朝1時間、走り続けるか
最後にご紹介したいのは、脳の「デフォルト・モード・ネットワーク」機能を味方につけることです。
私たちの脳は、通常、読み書き、計算などのときに活動しています。ところが、何もせずにボーッとしているときにこそ活動する回路があることが近年わかってきました。それが「デフォルト・モード・ネットワーク」です。
これはいわば脳のアイドリング機能で、瞑想や禅を行っているときなどに活発化し、脳のメンテナンスを行うと考えられています。自分でも意識に上がってこない心の整理をしたり、新しい気づきを得たり、ストレスを解消したりといったことを行ってくれている、非常に大切な機能なのです。
とはいえ禅などはなかなか日常生活に取り込むことが難しいですよね。そこで皆さんに提案したいのが、散歩やランニングです。実際に僕も毎朝1時間ほどランニングしているほか、仕事と仕事の間の移動はなるべく歩くようにしています。公園の緑などを眺めながら無心に歩くと、「あの人の言った意味はこういうことだったのか」「自分の心はこういう感情にあったのだな」といったことが、思うともなく整理されていくのだから面白いことです。