目覚めつつある「もう一つのアメリカ」

11月6日の中間選挙を控え、トランプ政権下で眠っていた「もう一つのアメリカ」が覚醒しつつあるように見える。まず、引退後沈黙を守ってきたバラク・オバマ前大統領が動き出した。トランプ共和党打倒を目指し、民主党の結束を図るという。

死の間際までトランプ大統領に猛省を促していた共和党の重鎮、ジョン・マケイン上院議員が8月25日に死亡したとき、全米メディアの「鎮魂報道」ぶりは異様といるレベルまで高まった。まるで大統領経験者が死んだような扱いだった。オバマ、ブッシュ(子)、クリントンと、直近の歴代大統領が党派を超えて葬儀に参列したが、トランプ大統領の姿はなかった。(※注6)

4000人が参列した「ソウルの女王」アレサ・フランクリンさんの葬儀も、全米のメディアで大きく取り上げられた。ソウル・ミュージックを通して公民権運動の促進と女性の権利向上に生涯をささげた偉大な歌手が訴え続けたのは「他者への愛と尊敬の心」。ネットで上位に表示されるニュースも、「マケイン」「アレサ」一色に染まった。

ウォーターゲート事件の報道で知られる伝説的ジャーナリスト、ボブ・ウッドワード記者の暴露本『Fear; Trump at the White House(恐怖:ホワイトハウスのトランプ)』や、現職政府高官がニューヨーク・タイムズに寄稿した匿名の「内部告発文」は、大きな話題を呼んでいる。さらに、全米小売業協会や全米民生技術協会をはじめとするアメリカの主要業界団体は、トランプの保護主義的な通商政策に反旗を掲げ、「Americans for Free Trade(自由貿易を指示するアメリカ人)」という業界横断的ロビイング組織を立ち上げた。

いずれも、このままではアメリカはダメになると憂う「もう一つのアメリカ」が動き出した証しだ。間近に迫った中間選挙で、アメリカ国民はどんな審判を下すのか。

(※注1)1934年に初めて制定され、インターネット時代に対応するために1996年に改訂された電気通信法の一部。「みだらな(obscene)」あるいは「下品な(indecent)」内容を18歳未満の者に伝達・展示することを禁じる一方、第230条ではユーザーがアップロードした内容について、インターネット接続業者やサーチエンジン、SNS事業者などは法的責任を負わないと定めており、オンライン・コンテンツの規制論議の一つの焦点となっている。
(※注2)クドロー委員長は、レーガン政権で大統領のアドバイザーを務めたエコノミストで、トランプ大統領とも長年の知己。3月に同委員長を辞任したゲリー・コーン氏の後任として就任している。
(※注3)インターネット接続をはじめとするネット関連のサービスを公共インフラの一つと位置づけ、すべてのデータやユーザーを平等に取り扱うことをネット事業者に義務付ける規制。オバマ前政権が2015年に策定したが、トランプ政権は「過剰な規制」として撤廃した。規制撤廃で多様なサービスの可能性が広がる一方、支払う料金によって個人や小規模事業者のネットへのアクセス権が阻害される懸念も指摘されている。
(※注4)“The media today: Should Google, Twitter and Facebook be worried about Trump's threats?” Mathew Ingram, Columbia Journalism Review, 8/29/2018
https://www.cjr.org/the_media_today/trump-google-tweet.php
(※注5)“Axios AM,”1 big thing: Trump's tight, lonely corner Mike Allen, AXIOS, 9/1/2018
https://www.axios.com/newsletters/axios-am-8c89c8c1-7cbd-4260-8476-037db9344ad1.html
(※注6)“In McCain Memorial Service, Two Presidents Offer Tribute, and a Contrast to Trump,” Peter Baker, New York Times, 9/1/2018
https://www.nytimes.com/2018/09/01/us/politics/john-mccain-funeral.html

高濱 賛(たかはま・たとう)
在米ジャーナリスト
米パシフィック・リサーチ・インスティチュート所長。1941年生まれ。カリフォルニア大学バークレー校卒業後、読売新聞入社。ワシントン特派員、総理大臣官邸、外務省、防衛庁(現防衛省)各キャップ、政治部デスク、調査研究本部主任研究員を経て、母校ジャーナリズム大学院で「日米報道比較論」を教える。『アメリカの教科書が教える日本の戦争』(アスコム)、『結局、トランプのアメリカとは何なのか』(海竜社)『アメリカの女の子はなぜ入れ墨をしたがるのか:Do We Know about Real America?』(近刊仮題、海竜社)など、著書多数。
(写真=EPA/時事通信フォト)
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