イングラム氏によれば、グーグルなどのインターネットの検索サイトは、ユーザーを識別する仕組みを用いて、そのユーザーが見たいだろうと思われる情報を選択的に推定し、ユーザーが見たくないだろうと思われる情報を遮断している(これをアルゴリズミック・フィルタリングと呼ぶ)。つまり、『トランプ ニュース』というキーワードを入力して検索すると、システムはそのユーザーの過去の検索履歴などから、主要メディアの情報を検索上位に表示する仕組みが出来上がってしまっている。(※注4)

アクセス数を増やすために多数派のユーザーの嗜好に合わせるという商業的目的とも相まって、「人間」ではなく「ネット」自体が、「主要メディア」の情報を半ば優先的に選択しているというわけだ(裏を返せば、主要メディアの多くがトランプ大統領の政策に厳しい批判の目を向けているということでもある)。その点では、トランプ大統領の憤りもわからないわけではない。

攻撃的なのはトランプの苦境の裏返し?

とはいえ、もしトランプ大統領がグーグルを提訴すればどうなるのか。前述のイングラム氏は、トランプの思うようにことを進めるのは難しいだろうと予測する。「まず、通信品位法第230条の改正または撤廃が必要になる。たとえそこを突破しても、今度は憲法修正第1条(言論の自由)がある」。すべてのアメリカ国民と同様、グーグルなどのサーチエンジンやインターネット接続業者も、憲法修正第1条によってその言論の自由を守られているのだ。

負けを承知でグーグルにけんかを売るトランプ大統領の言動は、大統領を取り巻く今の環境がいかに厳しいかを物語っているともいえる。ロシア疑惑も、もちろんその一因であろう。

人気政治評論ブログのアナリスト、マイク・アレン氏は、トランプ大統領が置かれている苦境を以下のように列挙している。(※注5)

・ワシントン・ポストとABCニュースの最新の合同世論調査によれば、大統領不支持率は60%、逆にロシア疑惑を捜査するロバート・モラー特別検察官の支持率は63%。
・法律顧問だったドン・マクガーン氏、次席法律顧問のアーニー・ドナルドソン氏が相次いで辞任。ホワイトハウスの顧問弁護士は従来の35人から25人に激減。
・「懐刀」だった個人弁護士のマイケル・コーエン氏が、トランプ氏の指示でポルノ女優らへの口止め料を支払ったことを連邦地裁で証言。元側近の裏切りが始まった。
・今や大統領とホワイトハウスのスタッフの間には完全な溝ができてしまった。側近の1人は「大統領は進退窮まったかのような言動を続けている」と漏らしている。